韓国音楽事情――2000年総集編
川上英雄(音楽評論家)
韓日音楽交流、新たな幕開け
来るべき新世紀を目前に控え、韓国で日本の大衆文化「第3次開放」が発表された本年は日韓エンタテインメント・シーンの新たな幕開けを宣言するメモリアル・イヤーと位置づけることができるだろう。
さる8月末、ソウルで1万人規模の公演を成功させたCHAGE&ASKAを筆頭に、日本人ミュージシャンの韓国上陸が相次ぎ、こちら日本でも「シュリ」に代表される韓国映画が一大ブレイクの様相を見せるなど、まさに海峡を挟んだ二つの国で、それぞれのエンタテインメントに対する認識が大きく変化したのは特筆に値するできごとといえよう。
それでは、ミレニアムから新世紀に向かう日韓最新音楽交流の最前線を本年の総括を交えながら紹介していこう。
チャゲ・アスが韓国における日本人歌手のダークホースであるなら、日本サイドで韓国歌手のホープに躍り出たのがさる10月に札幌・東京・大阪の3都市を巡回しジャパンツアー公演を行ったキム・ゴンモであろう。
90年代後半から本場ニューヨークをもしのぐ勢いで、ダンスやヒップ・ホップ系ミュージックが全盛の韓国歌謡界の頂点に君臨するキムは、これまで何度も日本デビューと本格的コンサートが噂されながらなかなか実現せず、日本のファンをやきもきさせてきた。
韓国のCDが全国の大規模音楽ソフト店で簡単に入手できるようになった現実もあって、キムのアルバムもこれまで日本盤は未発売であったが、来日を機にユイ音楽出版から限定版「GROWING」がリリースされた。
日本でもケーブル・テレビ「エム・ネットジャパン」開局により、Kポップが市民権を得ることになった昨今の状況は、日韓混成バンド、Y2KやSESなど若手アーチストたちが、海峡を越えて日常的に活動できるベースを確保した意味からも、その存在意義は大きく、エポックメイキングなできごととして芸能史に残るだろう。
時を同じくして、本編においてもたびたび紹介してきた日本人アーチストと在日韓国人系アーチストが華々しい活躍を始めたのも本年の特徴と位置づけることができるだろう。
坂本龍一に代表される国際派からジャズやアコースティックの人気アーチストの韓国上陸が相次いだ。秋以降にデビューしたアーチストに的を絞れば、ビジュアル系バンドの「MAD CAPSEL」が英語版シングルをメジャー・レーベルのソウル音盤から発売。同レーベルは、発足時に坂本龍一もメンバーであったYMO(イエロー・マジック・オーケストラ)のリミックス盤もリリースした。
ほかにも、日本の若いミュージシャンの紹介に意欲的なソニー・ミュージックエンタテインメント・コリアが、「Puffy」、「SIAM SHADE」「Crystal Kay」「BLUE|B」「L’Arc|en|Ciel」などを網羅した英語版コンピレーションアルバムを発売、日本語楽曲の全面解禁後を見据えた付せんとも受け取れるそのコンセプトが今、韓国の音楽産業界でも話題を巻き起こしている。
さらに日本でも人気の若手ジャズ・シンガー、小林桂の「SO NICE」やコンサートは来年に持ち越したものの、韓国語で録音した「清河への道48番」を今月、ソウル音盤からリリースするブルース歌手、新井英一など、枚挙にいとまがない。
21世紀まであとわずかだが、韓国のライヴ・スポットが日本人アーチストの公演ラッシュになるのも多分、もうすぐ夢物語ではなくなるに違いない。