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2000/08/18

<韓国文化>「米国を魅了した韓国陶磁」 伊藤郁太郎

 ニューヨークのメトロポリタン美術館は、年間入館者が五百万人を超す世界第一級の美術館である。同館のアジア部門のギャラリーの充実ぶりは定評がある。中核をなすのが中国ギャラリーで、日本美術ギャラリーは一九八七年に設立された。

 そして九八年六月に韓国美術ギャラリーが新設され、多くの韓国美術研究者や愛好家の長年の夢がようやくかなえられた。その開幕式には金大中大統領が出席されるなど韓国としては大変な熱の入れようだった。

 当館とメトロポリタン美術館とは、九二年五月から七月にかけて同館の特別展示室で「安宅コレクション韓国陶磁名品展」を開催したことや、作品の貸し借りなどを行っており、密接な協力関係にある。

 このほど、メトロポリタン美術館との協議がまとまり、二〇〇〇年夏から四年間、韓国ギャラリーに当館の韓国陶磁を最低三十点、常設展示することになった。私の知る限りでは、常設展に長期間貸し出された例はほとんどなく、当館にとって大変名誉なことだ。

 それに先立ち今年一月二十六日から六月十一日まで、同ギャラリーで当館蔵の韓国陶磁の代表作四十八点の特別展が開かれた。この展覧会は開幕当初から相当の反響があり、米国の代表的な新聞、ニューヨーク・タイムズの学芸欄は、トップ記事として約1ページ大の紙面を割いて、好意的な批評を掲載してくれた。また、米国の他の美術館関係者からも多くの賛辞が寄せられた。

 それらの批評の一つの特徴は、展示品のよさのはもちろんであるが、展示の方法が従来と異なり、一新したというものだった。実はこうした反響が現れることを、私としては最も期待していた。

 今回の展示は、メトロポリタン美術館の許可を特別に得て、当館が展示設備について種々注文を出し、また、韓国陶磁をショー・ケースの中ですべて同じ平面にゆったりと置いて、系統的でありながら一点一点がそれぞれ特徴を発揮できるように、いわば、当館自前の展示を行ったからだ。ライティングについても、特別の配慮をした。

 従来の欧米の美術館の陶磁器展示は、できるだ多くの作品を展示することを目指したものだが、今回はできるだけ作品の魅力を引き出すことに重点を置いたことに大きな相違がある。もちろん、多くの厳しい条件や大きな困難はあったが、結果的には当方の希望はまずまずかなえられた。すなわち、日本的美意識による展示が、初めて欧米の美術館で正当な評価を受けた、と私は考えている。

 当館は、来るべき新世紀における美術館のあり方の一つとして、コレクションのうち充実した部分、例えば韓国陶磁について常設展、あるいは企画展、特別展を通じてさまざまに展開させていくと同時に、主に欧米を中心に韓国陶磁に対する認識をさらに高め、また広げていくことにも重点を置いていきたいと考えている。

 その意味でも、今回のメトロポリタンでの展覧会は、韓国陶磁を世界の人にもっと知ってもらいたいという当館の普及活動の一端が、新しい世紀を迎えるとともに、新しい段階に入ったものとして心から喜んでいる。さらに、今秋からベルリン国立アジア美術館に対しても館蔵韓国陶磁の長期貸与をする予定である。


  いとう・いくたろう 1931年東京生まれ。東北大学文学部美学美術史学科卒。安宅産業・安宅コレクション学芸担当などを経て、82年6月大阪市立東洋陶磁美術館館長に就任。文化財審議会専門委員。95年に韓国陶磁普及に貢献したとして韓国政府から文化勲章受章。