日本人に伝えたい! 鄭夢準著
1996年5月31日、204の国と地域が加盟するFIFA(国際サッカー連盟)は、2002年のワールドカップ大会を韓国と日本の共催に決めた。W杯史上初めての共催だ。
本書は、このW杯成功を担う韓国側責任者、鄭夢準・韓国サッカー協会会長が書き下ろした日本人への熱いメッセージだ。共催決定から5年以上が経ち、大会まで半年を切った。両国民が手を携え協力して成功させなければならない大会だが、日本人は果たして韓国人の真の気持ち、そして韓日の複雑な歴史をどこまで理解しているだろうか。そんな杞憂が執筆の動機になっている。
日本人が韓国(人)を見る目に欠けている10の話、93年に韓国サッカー協会会長に就任してからのW杯関連の秘話、政治家としてのリーダー論の3部構成からなる。
戦後の韓国の経済建設や韓日関係の重要なポイントも分かりやすく書かれており、韓国理解に最適だ。
W杯誘致を打ち出した時、誰からも相手にされなかった。それを乗り超え共催になるまでの豊富なエピソードだけでも一読に値する。
鄭夢準氏は現代財閥総帥の御曹司であり、現代重工業社長を務めた実業家の顔と、88年から国会議員を4期連続務め、次期大統領候補の呼び声もある政治家の顔がある。また、日米への留学経験がある本格的な国際派である。
本書を読めば、彼のバランス感覚がいかに優れているかが分かる。W杯成功を願う日本人必読の書といえよう。
(日経BP社、四六判、248㌻、1400円)
韓国は、いま。 岡崎誠之助著
韓国に在住する日本人にとって常に気かがりなものの一つに「韓国人の反日感情」が挙げられる。
97年11月、ソウルで行われたサッカーW杯フランス大会アジア地区最終予選の韓国対日本戦で日本が勝った瞬間、勝利の雄叫びと歓声がとどろく日本応援席と試合終了と同時に一瞬静まり返った韓国応援席。
次の瞬間に何が起こるのか、と緊張に包まれたとき、韓国応援席からは日本の勝利を称えるエールがこだまし、ハングルと日本語でかかれた「2002年ワールドカップ韓日共催」の横断幕が掲げられた。
その場にいた在韓日本人なら誰もが「タイトルをつけたくなるような日」と感じたかもしれない。
本書は、丸紅の韓国現地法人の前社長である著者が韓国滞在期間中にみた韓国像と現地での生活をともにした日本人、韓国人を通じて考えさせられた韓国論である。
商社マンならではの経済分析にも事欠かない。今日でも韓国の人々の生活に大きな影響を及ぼしている儒教思想の源を作っている社会的身分概念である「両班」の文化が、実はIT発展に欠かせないという知人の考え方を紹介している。
両班文化には物事を因果律的に順を追って極めていくという思考があり、これが論理的思考をつかさどる左脳の働き、つまりITに必要な論理的思考を鍛練させていったという見方だ。
両班文化のプラス面をクローズアップさせた日本人の斬新な見方に、世界的半導体メーカー・サムスンの幹部も「うなづける点が多い」と賛同しているのが面白い。
(ダイヤモンド社、四六判、218㌻、1500円)
わがシネマの旅 ホ・ヒョンチャン著
いま日本では空前の韓国映画ブームが起きている。「シュリ」の大ヒットで火がつき、次々と話題作が公開され、今年の東京国際映画祭や東京国際ファンタスティック映画祭では韓国映画特集が企画されるなど、韓国映画はすっかり日本に定着したといっていいだろう。
韓国は最近の急成長ぶりから映画の新興国のようにみられがちだが、その歴史は古く、映画が発明されて2年後の1987年ごろに映画の上映が始まり、1919年には初の国産映画「義理の仇討ち」が製作・公開されたというのが定説となっている。
著者は、映画評論家であり、映画振興公社社長、韓国映像資料院理事長などを歴任し、自ら映画のプロデューサーを務めたこともある韓国映画界の「生き字引」で、映画の歴史とともに生きてきた重鎮である。
誕生から今日の隆盛まで、著者の体験やエピソードを交えた韓国映画史は、まさに講義を聴いているようなおもしろさがあり、韓国映画の多様な側面を知ることができる。
初期の映画製作や興行には、多くの日本人がかかわり、日本人の監督や俳優が韓国名で活躍していたという史実などは知られざるエピソードとして興味深い。
韓国映画とは何か。著者は、日本の植民地支配、南北分断、軍事政権下の抑圧、民主化闘争をへて新たな飛躍の時代を迎えた韓国映画の特質を「恨」と「抵抗」と位置付けており、映画が生まれた時代的背景にも鋭い考察を加えている。
本書は映画史を通じた韓国近代史ともいえよう。根本理恵訳。
(凱風社、四六判、504ページ、3300円)