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2001/08/31

<韓国文化>読書

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アジアからのネット革命  会津泉著

 韓国、マレーシア、シンガポール、中国のアジア4カ国のIT革命の実態報告書。随所に日本との比較検討を行い、日本の立ち遅れに警鐘を鳴らしている。

 筆者は80年代からパソコン通信の世界に足を踏み入れ、早くからインターネットの世界で働いてきた研究者であり、97年から3年間にわたりマレーシアのクアラルンプールを拠点にネット革命にかかわる生活をし、韓国をはじめアジアネット革命の実態をつぶさに見て回った。

 その体験をまとめた本だが、広い人脈から得た知識を数多く紹介する一方、ネット革命の社会的影響も論じるなど、類書にはないネット哲学的な味わいもある。

 通貨危機で底なしの不況に落ち込むと思われた韓国をはじめとするアジア諸国の経済回復を主導したのはIT関連の産業であり、その中枢にインターネットが存在していると分析、今後ますます経済成長の原動力になると見通している。

 その代表が韓国だ。98年からインターネット利用が猛烈な勢いで爆発し、高速通信を可能にするブロードバンドの加入者が500万人を突破、世帯当たりの普及率は30%に達し、米国の10%、日本の2%を大きく引き離す世界1の水準にある。利用率でも月平均16時間で、世界2位のカナダの10時間を大きく引き離している。

 韓国でなにが起きたのか、なぜ起きたのかを具体的に分析、検証している。韓国ネット事情を知るうえでも大変参考になる。

 日本にとっても、グローバルな流れの中で、ネット革命はアジアをベースにした隣国との協力関係を作り直すことを迫っていると結論付けている。(B6判、350㌻)

検証・幻の新聞「民衆時報」 金賛汀著

 昭和初期の軍国主義が台頭する時代に、大阪で刊行されていた「民衆時報」というハングルのタブロイド紙があった。

 治安当局の言論弾圧を受け、1935年からわずか1年足らずで発禁となり、押収された新聞は戦後、在日への弾圧の証拠隠滅を図るために廃棄処分されたという。

 ノンフィクション作家の著者は、75年に、幻の新聞といわれていたこの「民衆時報」を保管していた老人と出会い、現物を目にして驚愕する。

 そこには、民族の立場に立ち、在日の処遇改善を求める力強い主張がみなぎっていた。

 著者は、25年の歳月をかけて現存する「民衆時報」を丹念に読み解き、在日が置かれていた当時の社会的状況を描き出し、時代を検証する。

 残された紙面をみると、「朝鮮人は人である。人は人として生きなければならない」と民族の誇りを全面に掲げて、人権擁護を訴えており、日本が「内鮮一体」を唱え融和政策を強要していた時代にあって、堂々と論陣を張っていた編集者らの勇気に敬意を払わずにはいられない。

 驚くべきことは、「民衆時報」が、同胞だけでなく、ナチスの迫害に喘ぐユダヤ人の救済を訴え、アイヌ民族に対する同情と連帯の姿勢さえ見せていることで、偏狭なナショナリズム超え、グローバルな視点で論陣を張っていたことである。

 このような新聞が存在したことは、在日社会の誇りであり、日本の言論出版史の中でも異彩を放つ偉業といえるだろう。(四六判、336㌻)

期間限定 長州力  長州力著

 在日2世の人気プロレスラー長州力が、98年の引退から3年を経て1年という”期間限定”で今年1月にリング復帰した。

 その復帰への思い、プロレスラーとして成功する秘訣、小川直也戦の真実など、これまでメディアに見せなかった本音を赤裸々に語った書である。

 在日韓国人2世としての生い立ち、心情と3世への願いなどを語った「反骨イズム~長州力の光と影~」の続編になる。

 49歳で会社の興業的事情から現役復帰した長州力は、「若い世代の人間よりはコンディションは悪いが、プロとしてファンを堪能させるインパクトは100%若い奴らに勝てる自分への信頼がある」と語る。そして「人と違う自己演出の方法を身につけろ」と若手レスラーの奮起をうながす。

 在日に生まれ、国籍の問題とかトラブルを抱えても悩みを分かち合えるはずと、同じ在日の女性と結婚して家庭を築く。

 娘3人に恵まれるが、その子供たちには「長州家・人生3つの掟」を伝える。そのやってはならない3つとはウソをつくこと、差別をすること、うわべでものをしゃべることだ。

 在日として、レスラーとして、経営者としての人生経験から導き出された”掟”であり、長州力自身が日ごろから心がけている人生訓でもある。また在日に生まれたことも、きちんと娘たちに伝えようとしている。

 来年1月4日に引退する“期間限定”まで「新しいものを客に見せ続け、最後は綺麗に終わりたい」と願う長州力の、これまでのレスラー人生の総論といえる本だ。(B6判、192㌻)