ここから本文です

2001/06/29

<韓国文化>読書

  • bunka_0106029.jpg

東アジア経済協力の現状と可能性 
 野副伸一・朴英哲ほか編著


 98年10月の金大中大統領の日本公式訪問時に韓日新パートナーシップ宣言が発表されたのを機に、韓日の学者が「韓日共同研究フォーラム」を結成、日韓文化交流基金の助成を受けて、歴史1(前近代)、歴史2(近現代)、政治、経済、政治経済、文化、北朝鮮の7つの研究チームを設置し、96年4月から共同研究をスタートした。

 本書は、98年までの経済チームの第一期研究成果をまとめた日韓共同研究叢書の第1冊目として刊行されたもので、通貨危機をへて新たな調整局面に入った韓国経済の現況分析と韓日関係について論じている。

 「日韓経済関係の展開と展望」と題して執筆した仁千錫・建国大学助教授は、韓国は半導体、造船、鉄鋼など主要産業で日本に肩を並べるほどに成長したが、資本財、中間財といった分野では対日依存度が高く、日本の技術を吸収することによって同分野での自給度を高めることが重要だと指摘。また、今後は中小企業も研究開発拠点を日本に設置するなど、ノウハウの取得が不可欠で、そのためには、韓日の地方自治体間の協力拡大が重要だと提言している。

 関満博・一橋大学教授は、韓日中の産業・技術協力について論じ、鋳造、メッキなど中小企業が支えてきた日本の「基盤技術」が崩壊の危機にあり、韓国もハイテク技術の進展に反比例して「基盤技術」の育成は進んでおらず、その穴を中国が埋める役割を果たすだろうと予測。今後は「環黄海」が東アジア経済のキーワードとなり、相互依存関係を強め、経済基盤、技術基盤の整備を進めていくことが、発展の重要な要素になると指摘している。
(A5判、315ページ)

オリンピック30年  金雲龍著


 本書は、次期IOC(国際オリンピック委員会)会長の有力候補の金雲龍IOC理事が、30年間携わってきた五輪の理想をつづった自伝的な本であり、五輪をめぐるエピソードも数多く盛られている。

 金雲龍氏はいくつもの顔を持つ。もともとは駐米韓国大使館参事官などを勤めた外交官だった。だが、93年に世界テコンドー連盟を創設したスポーツ行政家、IOC(国際オリンピック委員会)委員、世界競技連盟会長などの要職に就く国際スポーツ界のリーダーとなり、民主党国会議員として政治活動も行っている。  

 プロ顔負けのピアニスト、固い木製机を叩き割れる武術家、韓国語をはじめ日英独仏西ロの7カ国語が堪能で、誰とでも意思疎通ができる。このような多彩な経歴と特技を持つ人物が、波乱の人生を語っているだけに非常に興味深く読める。

 群雄割拠していた国内テコンドー界をまとめ上げ、オリンピック正式種目に決定させた手腕。81年、ドイツのバーデン・バーデンでソウル五輪開催を決めるための奮闘、シドニー五輪での南北同時入場行進を実現させた対北交渉は感動的ですらある。

 「スポーツは国境を越えた言葉であり、全世界の人々を感激させ、和解させる大きな力を持っている」。スポーツを通じた世界平和への挑戦がつづられた本でもある。
(創樹社、B6変形判、289㌻、1905円)

写真集・門外不出!力道山  流智美・佐々木徹編   


 表紙をめくり、さらにタイトルカバーをめくると1枚のモノクロ写真が目に飛び込んでくる。黒タイツ姿の力道山が右手を振り上げ、いまにも空手チョップを繰り出そうという姿だ。年配ならかなりの人がこの写真を見て、遠い昔の力道山の勇姿を思い出すに違いない。

 本書はプロレスラー力道山の足跡をたどる写真集だ。本格的な写真集としては初めてという。シャープ兄弟や鉄人ルー・テーズをはじめとする数多くの試合は勿論、リング外での素顔も数多く盛り込まれており、約220点の写真がヒーローをよみがえらせる。

 いまでは知られるようになったが、力道山は北朝鮮出身で本名は金信洛。当時は、その出自を隠し、日本人の白人に対する劣等意識を跳ね返す役割を担うことで日本の国民的ヒーローになった。その面での葛藤が力道山の心のなかにあった。北朝鮮では、いまでも力道山は英雄視されており、娘が住んでいるという。

 そうした「秘密」はこの写真集からはかいま見えないが、2カ所だけ出自にかかわることに触れた部分がある。力道山の一番の好物が焼肉とキムチ、豆モヤシ(ナムル)だろうとしているところで、韓半島出身者ということうかがわせる。もう一つは、来日し大相撲に入門し、プロレスに転向した生き方が西郷隆盛に似ているとしたところだ。

 田中和章氏と田鶴浜弘氏(故人)の写真は、力道山というヒーローの生きざまと人間的な魅力をあますところなくとらえている。日本の戦後史もかいま見える写真集だ。
(A5判、229㌻)