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2001/05/25

<韓国文化>戸田志香の音楽通信

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      洗足学園大学のジャズ研究会を相手にワークショップを開催

 韓国の音楽というと「サムルノリ」を挙げる人が多い。四つの韓国打楽器を使ったサムルノリは、七〇年代の終わり、創作演奏団の名称としてつけられた名前だった。それが韓国のみならず、世界中に一大旋風を巻き起こし、今では韓国を代表する文化になった。現在、韓国ではアマチュアを含め、三百―四百のチームが活動しているといわれている。

 打つこと、たたくことになぜ夢中になるのだろう? と思うことがある。それをイギリスの人類学者ニーダムはこう問いかけた。「なぜ、打ったり振ったりして出される音がかくも広く、もう一つの世界との通信に使われているのか?」

 「もう一つの世界との通信」。確かにそうかも知れない、民族打楽器を聞いていると、知らない世界とのやりとりのただ中に、まぎれ込んだ気にさせられることがある。それが大いなる魅力かも知れない。

 「プリ」という若いパーカッショングループがいま注目されている。三人は韓国出身で一人は在日だが、そろってソウルにある国立国楽高校、そして音楽大学の国楽科の卒業生だ。しかし、儀式の中の伝統音楽にも、またまぶしいほどだったサムルノリに続いていくことにも抵抗を覚えた。新しいものを生み出していきたい――そこから結成されたグループだ。彼らは打楽器だけではなく、管楽器の太平簫やテグム、弦楽器のアジェン、また楽器とは呼ばれないものを使うこともある。

 ソウルにある世宗文化会館が発行する月刊機関誌で、プリのことを「たたくことのすべてを見せる創作打楽器グループ」と形容していた。これが韓国におけるプリの評価だ。

 今年二月、プリは日本各地での公演の合間にワークショップを開いた。富山県福野町では小学生が対象だった。「生活用品を打楽器に変える」という呼びかけに、放課後、二十人近くの児童が集まった。みんなフライパンやらフライ返し、おたま、鍋、菜箸、ざる、ペットボトルなどをかかえて、にこにこしながらやって来た。

 「韓国ではリズムのことを長短(チャンダン)っていうんだ。長~い、短いっていうことなんだ」「じゃあ、叩いてみようか。♪♪♪(3拍子)と♪♪(2拍子)だよ」「あっ音が出る」「だれでもできるんだ」「規則ってないみたい」。とっさに子供たちは理解し、顔がパッと輝いた。

 最後は低い音のペットと高い音の金物の二手にわかれ、韓国語の合いの手を入れて民謡を仕上げた。こどもたちは夢中だった。

 リズムがピタッとはまると、五感全体で、自分の精神や体が満たされてくるのを感じるのがドラマーだそうだが、この日の子供たちはまさにドラマーになったのだ。

 この六月の公演からプリのプロデュースを担当することになったカンバセーションの芳賀氏は、「打楽器は民族の血です。だから単純なものではない。伝統に対して自由なプリはいま、生きている人たちの共通の打楽器だ。今後、日本の若いポップミュージシャンたちと出会うことで、もっと幅広い活動ができるだろう」と期待する。

 六月、プリはより信念を燃やした音楽をぶつけてくるだろう。