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2001/02/02

<韓国文化>韓日オペラ制作記念公演によせて

韓日オペラ制作記念公演によせて
 ――――竹澤嘉明・東京室内歌劇場運営委員

 精神的交流深める契機

 日韓オペラ共同制作記念「韓国国立オペラ団・東京室内歌劇場共催公演」が先月下旬、東京・初台の新国立劇場で行われた。韓国側は民話をもとに創作した世界初演となる「春・春・春」、日本側は中島敦の「山月記」を題材にした「虎月傳」を上演。両作品とも好評を博した。今回の公演の意義と韓日オペラの交流について、竹澤嘉明・東京室内歌劇場委員長に文章を寄せてもらった。

 既に東京室内歌劇場では、日韓合作オペラとして1991年にオペラ「おたあ・ジュリアの殉教」(中村栄台本 李演国作曲)を上演するなど10年の歴史を積み上げてきた。

 今回、文化庁の助成を受け、韓国国立オペラ団と東京室内歌劇場が日韓共同制作公演としてオペラ「虎月傳」(田中均作曲)とオペラ「春・春・春」(李健庸作曲)を1月19、20日に新国立劇場中劇場で同時上演した。

 日本側のオペラ「虎月傳」は、中島敦の「山月記」を題材に生まれ、オペラの名作として80年に初演され、以来数十回の公演を重ねている。「虎月傳」は自分のルーツを韓国の人びとに紹介することにもなる、スタティックなしかし緊張感の高いオペラだ。

 韓国側のオペラ「春・春・春」は、作曲家の李健庸氏が日本滞在中に狂言に触発され、韓国で馴染みの民話「春・春」を、韓国の伝統音楽や音階やリズムを生かした喜劇作品オペラ「春・春・春」として生まれ変わらせ、世界初演したものだ。韓国の素朴な農村風景、風物を、小編成ながら打楽器群を多用した現代感覚によって、のどかな春の謳歌として成功、多くの識者の賛辞を受けた。

 一方、同公演では、韓国人歌手が日本語で、日本人歌手が韓国語でと、双方のオペラ作品に入れ替えて出演する試みも行われた。入れ替え公演には制作当初、日本側のスタッフは消極的だったが、しかしいざ取り組んで見ると、自国において無意識に歌われていた表現が、韓国歌手の演奏に接して思いもかけない輪郭の美しさ、あるべき姿を再発見する貴重な機会となった。

 お互いの文化を確認しあい、日韓両国の精神的交流を一層深める公演となったのはうれしいかぎりだ。

 かつて日韓合作オペラを企画した際に、「日本のオペラが確立していない時に、日本人の台本、韓国人の作曲になるオペラ作品の企画は無謀」と批判されたことを思い返せば、感慨深いものがある。ISCM世界現代音楽祭韓国公演に参加した、オペラ「超越」(中村栄台本、姜碩煕作曲)の成功にも見られるように、一つの舞台上で日韓中の言葉が飛び交うのは、21世紀においては既にクリアされた事柄となった。

 3月22日―25日に韓国国立劇場において「第三回ソウル国際小劇場オペラ祝祭」(韓国国立オペラ団主催)が開催され、今回の企画も再上演される。

 同団の芸術監督である朴秀吉氏の「小さな懸け橋ではあるかも知れないが、今回の公演が韓日の芸術が出会い、互いをより深く理解していく大事な実を結ぶことを心より願う」との言葉は、日韓オペラ界の共通の願いである。

 <筆者プロフィール>
 たけざわ・よしあき 1943年生まれ。東京芸術大学、同大学院修了。68年、芸大オペラ公演「秘密の結婚」(チマローザ)でオペラデビュー。75年及び80年にウインナーワールド・オペラ賞を二度受賞。一方ライフワークとして、古典から現代までのあらゆる日本歌曲の演奏に意欲的に取り組み、大きな成果をあげている。76年、ウィーンに留学。現在、福島大学教授。東京室内歌劇場運営委員長、二期会々員。