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2002/11/29

<韓国文化>書評

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 ◆ 韓国企業モノづくりの衝撃  塚本潔著

 外貨が底をつきIMFの管理下に入った韓国。しかし、わずか3年で立ち直り、その後2年間は自動車をはじめ、半導体、携帯電話、液晶などの先端分野で韓国商品が物凄い勢いで世界市場を席巻している。また、デジタル商品やインターネットが提供するサービスを扱う市場として韓国は最先端市場に浮上、それに伴って韓国メーカーの技術レベルも加速度的に進化している。その秘密に迫ったのが本書だ。

 「トヨタとホンダ」の著者で知られるジャーナリスト、塚本潔氏が、現代自動車、サムスン電子、LG電子、SKテレコムなど韓国を代表する企業の現場を密着取材、現場の技術者らから生の声を聞いて技術に裏打ちされたパワーの源泉を浮き彫りにしている。韓国の強さは本物なのか、と少しでも疑問を持つ読者にはとんでもない間違いであることが分かるだろう。

 例えば、なぜ韓国の携帯電話が世界市場で急伸しているのか。最大の理由は米国方式のCDMAを選択、そこに集中し世界トップクラスの競争力をつけたからだ。CDMAに本格参入した日本メーカーが京セラ以外になく、欧州勢もGSMに特化していたので、韓国メーカーが米市場で比較的独占的地位を築けた。このような政策的な判断と、最先端の技術を取り入れた超高速・超軽量を実現、消費者からブランド品として評価を得たことが大きいと分析。韓国の強さは強くなる努力をしていた結果であることが分かる。

 パソコンを使う機会の少ない主婦のために世界に先駆けてインターネット冷蔵庫を開発、販売を開始したこともそうだ。綿密に事前の市場調査を実施、新しいアイデアを取り入れ、直ちに商品化する機敏性に著者も驚嘆する。

 そして、日本的なモノづくりの考え方と米国的な経営手法を見事に融合し、戦略的思考や競争原理で日本メーカーを上回ると言い切る。なぜ韓国企業は強いのか、本書を読めばその本質が分かるだろう。(光文社新書、212㌻、700円)


 ◆ サムスン電子  韓国経済新聞社編

 現代、サムスン、大宇の3大財閥が長い間、韓国経済を牽引してきた。だが、IMF危機は明暗を分けた。大宇は解体され、現代は核分裂した。唯一、サムスンだけがグループとしてのまとまりを維持、成長を続けている。その中核企業がサムスン電子であり、半導体、携帯電話、液晶などで世界市場を席巻している。いま、世界で最も注目されている企業の1つである。そのサムスン電子の強さの秘密を解き明かしたのが本書だ。

 実は、サムスンもIMF危機で他の財閥同様苦境に陥った。しかし、9万人に達する全従業員の3割以上をリストラ、収益の上がらない事業を整理するなど果敢な手術をした。もし、このうような手術がなければ今日の成長は望めなかった。これを実行できたのは、強力なオーナー経営者、李健煕のリーダーシップが大きい。それは、20年位以上も前に半導体が成長産業だと確信、反対を押し切って取り組んだことによく表れている。

 事業が好調だった93年には、新経営宣言を発表、7時出社4時退勤などの改革を実施した。安住せず挑戦するタイプのリーダーだ。そして、IMF危機克服後のこの2、3年の間に世界1商品を続々世に送りだし、日本の電機メーカーが続々赤字転落している中、史上最高益をあげ、時価総額はソニーを抜いた。史上最高の収益をあげているいまも、挑戦はやまない。

 未来に備えるために最も必要なことは人と技術であり、研究開発やマーケティングなどに国籍を問わず優秀な人材確保するようはっぱをかけている。

 韓国経済新聞社特別取材チームが経営陣へのインタビューをはじめ多角的な取材で今年3月から20回連載したものに加筆補正して一冊の本にした。世界企業に押し上げた経営体制などサムスン電子のすべてが分かる内容だ。訳者は福田恵介氏。(東洋経済新報社、四六版、1600円、283ページ)


 ◆ 海峡を渡るバイオリン  陳昌鉉著

 独学でバイオリンの製作技術を習得し、76年の「国際バイオリン・ビオラ・セロ製作者コンクールで6部門中5部門で金メダルを獲得、全世界でたった5人しかいない「無鑑査マスターメーカー製作家」の肩書きをもつ在日韓国人の陳昌鉉氏。バイオリン作りの名人が日本におり、しかも在日であることは意外と知られていない。

 本書は、韓国で生まれ、14歳で勉学のため日本にわたり、輪タク(自転車タクシー)やくず拾いなど、さまざまな仕事をしながら苦学して明治大学で卒業、バイオリンの魅力にふれ、製作者をめざした陳氏の半生を二人のライターが聞き書きしてまとめたものである。

 陳氏がバイオリン製作者になろうと決意したのは、大学3年のとき。世界的な科学者、糸川英夫氏の講演「バイオリンの神秘」を聴いたのがきっかけだという。零戦を設計した科学者が、「人間が月に行ける時代になっても300年以上も前につくられた名器ストラディバリウスの技術を再現するのは不可能だ」と語ったことに衝撃を受け、一生をバイオリン製作にかけてみようと決意する。

 その後の貧困と闘いながらのバイオリンとの格闘、栄光までの険しい道のり、一つの道を極めようとする人間の執念は感動を呼ぶ。

 本書は、植民地支配、南北分断といった時代背景をも映し出しており、在日史としても読むことができる。(河出書房新社、四六判、340ページ、1800円)


 ◆ 脱-私の経営 私の人生  金本(金)太中著

 家業「金本商店」を年商650億円の東証一部上場企業「カナモト」に育て上げた在日2世実業家の経営論である。そして在日として生まれ育った自らの人生を振り返り、民族意識を覚醒させられた詩人の姜舜氏、金素雲氏や飯島耕一氏らとの交友関係などを綴っている。東大出の文学青年が、それまで門外漢だった実業の世界に足を踏み入れ成功させた秘訣は? そういった視点からも興味深く読める本だ。

 1963年、父親が旅先で急死し兄弟3人で家業を継いだ時、同族経営による弊害を除去するため同族間で地位の争いなどを禁じた「3戒」を作り、出発点から近代的経営を目指していた。

 現在、カナモトのビジネスの核は建設建機のレンタルだが、当時は総売上の1%に満たなかった。もともと鉄鋼販売業だったが、時は池田内閣の所得倍増計画にみられる高度成長時代。新幹線、高速道路、東京五輪、大阪万博と大型プロジェクトが目白押しであり、建機のレンタルに主力をおく方針転換した。著者はこれを「脱鉄鋼、入レンタル」と表現している。その後、情報通信機器への進出やベンチャービジネスへの進出を遂げている。

 「変革は脱と同義である。同時に変革とは現状の否定でもあろう。変革の意思がなければ脱はありえず、脱によって新しい世界が拓かれ、より高い次元に発展して行くのだと思う」

 この脱の思想に基づいた先見性と思い切った決断が事業規模を伸ばし、一介の中小企業から1部上場企業に発展させた。

 著者はまた、会社の進路、つまりビジョンを特に重視、「そこに求められるのは目線の高さであり、志の高さである」と強調する。原理原則に立ち返って物事の本質を見極めようとする姿勢は、社長退任の時にも表れた。それは98年4月、一部上場を祝う会の席上で発表、「新しい葡萄酒をつくるのを、次代のものに任せるべきだと自覚したからだ」といい残して会長に退いた。

 企業の持続的成長のためには変革が必要であり、そのためには強力なリーダシップが求められることを自身の実践を通して示した書であり、混迷の現代に示唆するところが多い。(北海道新聞社、四六変形判、295ページ、1500円)


 ◆ ねこぐち村のこどもたち  金重美著

 仁川にあるもっとも古い貧民街、それが「ねこぐち村」である。名前の由来は、人々が住み着くようになった海岸沿いの近くに、猫島という小さな島があったことから来ている。

 ねこぐち村が形成されるようになったのは、仁川開港の時からなので歴史は古い。その後、韓国戦争の混乱を逃れてきた避難民や、50、60年代の経済開発で都会に出てきた人々が同地に定着するようになっていった。

 同書は、貧しい人々のために生きることを決心して、そのねこぐち村に1987年から定着し、貧しい子どもたちと一緒に勉強したり遊んだりするための「線路わきの小さな学校」を運営する金重美さんが、その体験をもとにまとめた小説である。2000年7月の出版直後から話題を集め、テレビ番組の読書キャンペーンで必読書に取り上げられたこともあって、発売部数数百万部の大ベストセラーになった。

 大酒を飲んで暴れる父親に反発し、シンナー遊びに夢中の東樹(トンス)、貧しさと寂しさを乗り越えて懸命に助け合いながら生きる淑姫(スッキ)と淑子(スッチャ)の姉妹など、60年代に日本で大ヒットした「キューポラのある街」に出てくる子ども達を連想させる。家族愛、人間愛、友情とは何かを問いかける力作だ。(廣済堂出版、四六判、288㌻、1600円)


 ◆ イージーハングル  ユンソナ監修

 ドラマ、バラエティ、そしてNHK教育テレビ「ハングル講座」でも活躍中の韓国人タレント、ユンソナが監修した「トモダチになるための『ユンソナ流超カンタン韓国語会話』」。

 「とにかく覚えたいキホンの5単語」「これさえ覚えておけば、いつでも&どこでも使える5フレーズ」「超基本のあいさつフレーズ」など、この本で取り上げている単語や文章は、現代の韓国の若者たちが日常で使う韓国語表現。

 例えば、好みの男性に会って一言、『ヨジャチング イッソヨ?(彼女いますか?)』と声をかけるとか、下らないギャグを聞かされたら『ソルロンヘ!(さっむー!)』と切り返すなど、どれも生きた表現ばかり。

 付属の赤いシートを重ねるとカタカナで書かれた発音が見えなくなるので、難しい発音の勉強にも使える。(学習研究社、新書版、145㌻、952円)


 ◆ 北のサラムたち  石丸次郎著

 アジアプレス・インターナショナルに所属するジャーナリストが、約10年をかけて取材し、北朝鮮難民の実態に迫った渾身のルポであり、その衝撃的な内容に戦慄が走った。著者は、脱北者と朝中国境で共同生活をしながら聞き取り調査を続けたということが、北朝鮮サラム(ひと)の告白は想像を絶する悲惨なものである。

 例えば、中国東北部の農村では嫁不足が深刻で、平壌の女性が人身売買に近いかたちで売られてくる。北朝鮮では食糧不足から半分の主婦が「花を売って」(売春)家族を養い、中国に脱出しても非合法の身分のため、生活のために身体を売るしかないのが現状だという。

 北朝鮮では「わが国に孤児など存在しない」と豪語しているが、著者がNGOと一緒に豆満江をわたり北朝鮮の咸鏡北道に入り、偶然ヤミ市に足を踏み入れると、3、4歳から中高生くらいまでの浮浪児がたむろし、野良犬のように大人の食べかすに群がっていた。外国人とみると、食べ物やカネをせびり、どこまでもついてきたという。

 極秘に撮影したフィルムは、なまなましい実態を伝えており、北朝鮮が「楽園」と正反対の国であることを裏付けている。(インフォバーン、四六判、285ページ、1500円)


 ◆ めぐみ、お母さんがきっとたすけてあげる  横田早紀江著

 泣けてくる本である。25年前の11月、学校帰りの娘のめぐみ(13)が忽然と姿を消した。新潟県警の大掛かりな捜索もむなしく行方はわからず月日だけが過ぎていく。一体なぜなのか。事故か、家出か、自殺か、とあらゆることを考える母親の切々とした思いが綴られている。

 娘がいなくなった夜、懐中電灯を持ち、めぐみの名前を叫びながら双子の弟たちをつれて近くの海岸を必死に探し回ったこと、もしも家出だったら自分たちの子育ての仕方が悪かったのではないかとわが身を責めたこと、娘に似た顔の人に出合うと身元を確かめずにはいられなかったこと、などが静かな語り口ながら切々と語られている。

 原因の分からない幼い娘の蒸発は、家族を不安と焦燥感で包み込み、いつも賑やかで楽しかった5人家族の食卓は、灯が消えたように寂しくなった。手がかりを求めて探し続ける家族。どこかできっと生きている、と信じて諦めない家族。20年以上にわたり待ち続ける家族の気持ちが痛いように伝わってくる一級の手記だ。

 そして、北朝鮮による拉致であることが判明、しかも亡くなったという。テレビ画面に映し出された愛くるしい孫娘のキム・へギョンさんが失踪した娘と二重写しになって迫ってくる。(草思社、四六版、222㌻、1500円)