W杯韓日共催大会を記念し、石こうでとった顔の型からつくる2002個の和紙のマスクを展示するプロジェクト『日韓ライフマスク2002』が、W杯決勝戦の開かれる横浜で展示中だ。会場には、現在完成した韓日合わせて約1500人分のライフマスクが展示された。会場ではマスク制作のワークショップも連日行われており。出来上がり次第展示を行っている。趙世衡・駐日韓国大使夫妻も激励に訪れた。同プロジェクトを企画した造形作家の金明姫さんに話を聞いた。
――なぜライフマスクを制作しようと考えたのか。
もともとは絵を描いていた。アメリカ人の夫の仕事の都合で27年前から京都に住むようになった。休暇のたびに日本国内や外国を旅行して、ほとんどの場所にマスク(仮面)があるのに興味を覚えた。なぜ人はマスクを作るのだろうと。マスクをみながら、日本にいる韓国人の私、アメリカ人の夫と家では英語を会話している私、夫の友人たちと一緒にいるときの私 私とはいったいいくつのマスクを持っているのだろうとずっと考えていた。
ある日、友人の彫刻家に自分の顔を作りたいけれど難しいかしらと相談して、その友人に石膏で顔を作ってもらったのが94年だった。決して美しくはないが、すべての飾りを取り去った自然な姿の大切さに気が付いた。私はいつも手漉きの韓紙や和紙に絵を描いていたので、身近にあった紙を使ってそこから発展させていく形でマスク制作を始めた。
――ライフマスクはどうやって作るのか。
ライフマスクとは和紙で作った人の顔型のことで、作り方はまずモデルの人の顔にクリームを塗る。呼吸用に紙製のパイプを鼻につけ、石こうで20分ほどかけて顔型をとる。
固まったら顔から外し、顔の内側に和紙を入れ込み、糊を塗る。そのようにして和紙を3重に張り合わせて、最後にドライヤーで乾かす。和紙を張る作業はモデルの人にもやってもらう。1つ作るのに1時間以上かかる。
感受性のすごく強い女子大生は、顔型を取る際、泣き出してしまい半分だけのマスクが出来上がったことがある。彼女は石こうが流されたとき、「外部と絶たれた気がした」と話していた。こんな経験は初めてだった。
そうかと思えば、子どもは顔型をとるのに抵抗することはほとんどない。また背広姿の中年男性が何人かやってきて、自分で制作したマスクと記念写真をとるなど、子どものようにはしゃいで楽しんでいた。
そうして出来上がった顔は、自然で安らいだ表情をしている。目を閉じて静かにしていると地位や肩書きとは関係のないその人本来の表情が現れるのだろう。
――紙を使うことの意味は。
ライフマスク制作には大量の紙が使われている。紙は生活の中に生きていて、なじみのあるもの。紙文化を広く紹介したかった。
制作には、韓国では韓紙を、日本では和紙を基本的に使っている。ともに楮(こうぞ)を原料としているが、育つ土壌が違うので、おのずと違いがある。韓紙は大変丈夫で厚く、優れた紙だが、ライフマスク制作には兵庫県加美町の杉原紙が適している。韓国でも繊細な骨格を写し取るために最初の1枚は杉原紙を使っている。
自然のものにこだわっているので、糊も毎日小麦粉を炊いて作っている。1日中作業しても疲れないのは自然のものを扱っているから。この作業を通じて、素晴らしい紙文化を感じてほしい。
――日本での開催について思うことは。
W杯の韓日共催が決まったとき、自分にも何かできないだろうかと考え、韓国と日本で暮らしている人たちの顔をつくって同じ壁に飾り、顔の交流をすることを思いついた。
父親が戦前日本に留学していたこともあり、植民地時代の世代の声を生で聞いていたが、特別日本に関心を持っていたわけではなかった。日本に27年間暮らしているが、国家・国籍よりも個人の良さを見るべき。3年間という長期にわたるこのプロジェクトは自分1人でできなかった。多くの友人からの協力を得て実現できた。
また初日には韓国の駐日大使や横浜総領事、それに新聞記事を見て来てくれた地元の日本の人々もたくさんいてくれた。在日の人々もぜひ来てほしい。