花崗岩の露出した山々が連なる韓国。古来人々は身近にある山や岩を信仰の対象としてきた──。そんな韓国の石仏をテーマとした小坂泰子写真展「韓国の貌(かお)」が都内のギャラリーで3月5日から開かれる。
微笑みの豪快さで名高い百済・瑞山の磨崖三尊仏。荘厳で華麗、世界遺産にも選ばれた統一新羅時代の石窟庵・釈迦如来坐像。高麗時代の人間味あふれた仏像など、今回の写真展では韓国の風土、自然、そして人々が生み出した石の仏たちの写真約80点が展示される。
朝鮮半島に仏教が伝来したのが4世紀後半。以降、韓国仏教の歩みは平坦なものではなかった。度重なる戦乱と迫害。山中の風化した石仏、磨崖仏(天然の岩壁に彫刻した仏像)の穏やかで素朴な風貌の奥には、そんな歴史が隠されている。
一方、今回の写真展のテーマである「韓国の貌」とは、そんな石仏を「祈りの対象」としてきた、韓国の庶民たちの顔でもある。世界遺産に登録された国宝も、道端の名もない石仏も、ひとしく「仏」として手を合わせる人々。そんな「祈り祈られる」真摯な暮らしのありさまが伝わる。
小坂さんは大阪生まれ。経済誌『財界』に入社し主幹三鬼陽之助氏の秘書を勤めた。
そんな小坂さんの転機となったのが、路傍にたたずむ小さな石仏─道祖神(どうそじん)との出会。その愛らしさと素朴さに魅せられた小坂さんは、会社を辞め本格的に写真の道に進む。
石仏の源流を求めてインドやバリ島へと足を伸ばし、韓国の石仏と出会ったのが85年。
自然と向き合う敬虔な韓国の人々の姿に感銘を受た小坂さんは、3年をかけた取材の成果を『韓国の石仏』(1987年、佼成出版社)として出版した。
以来「祈りの対象としての石の世界」をテーマに、日本の風土や自然石、磨崖仏に向き合ってきた。昨年は今回の展覧会のため韓国を再訪、約1カ月にわたり各地を回り、撮影を行った。
小坂泰子さんの話
日本にも奈良、平安、鎌倉時代までは、奈良、滋賀、京都、九州地方に力のある磨崖仏が刻まれていますが、平安中期に寄せ木造りの技法を習得したことで、石から木彫の仏像に変化したようです。
韓国の国土の70%が山で、しかも良質の花崗岩が素材として身近にある。大きいですね。石を刻む。習練を積む。工夫をする。そして、過去から現在、未来につなぐ。石だからできる。すごい。国土が生んだ仏像が韓国の貌に見える。
時に、私の中で、慶州の南山に刻まれた大磨崖仏と九州の国東半島の磨崖仏が重なり合って、楽しいです。
展覧会場で、韓国の素晴らしい仏教文化の一端を石像を通じて見て欲しい。日本人はもちろん、在日の多くの方々にも、ぜひ。遠い昔からの文化交流を振り返り、深めるきっかけに。
同展は新宿パークタワー1階「ギャラリー・1」(℡03・5322・6492)にて3月5日(火)から28日(木)まで開催。入場無料、会期中無休。