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2003/10/31

<韓国文化>南北映画交流に道筋

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    もんま・たかし 1964年生まれ。映画批評、映画祭のプログラマーなどを経て、現在、明治学院大学助教授。アジア映画の研究にたずさわる。主著に『アジア映画にみる日本』(社会評論社)などがある。『北朝鮮映画論』を執筆中。

 韓国の釜山映画祭、そして日本では山形ドキュメンタリー映画祭が開催されたのに続いて、来月から東京国際映画祭が始まる。釜山、山形の状況と東京国際映画祭の見所について、本紙客員ライターで映画評論家の門間貴志さんに文章を寄せてもらった。

 黒沢清監督の『ドッペルゲンガー』で幕を開けた、第8回釜山国際映画祭(10月2日~10日)だが、今年は北朝鮮映画の特別上映という新たな試みもなされている。98年以来、南北の映画人が誠実に協議を積み重ねてきた成果である。2000年には釜山映画祭実行委員長である金東虎氏を含め、韓国映画代表団 9人が平壌を訪問した。

 今回の上映では、『わが故郷』『我ら列車販売員』『大同江で会った人々』『春の日の雪解け』など計7作品が紹介された。『わが故郷』は解放後の北朝鮮で最初に撮られた記念すべき作品で、以前日本でも上映されている。釜山映画祭は今後も平壌映画祭との相互交流、ひいては北朝鮮に保管されている韓国映画の復元などにも取り組むとのことである。南北が互いの映画史を補完しあう機運が生まれたことは大変喜ばしいことである。

 他にも、アクション映画の巨匠・鄭昌和監督の回顧上映など興味深いプログラムが組まれ、上映本数も前回よりやや増加したものの、動員数はやや減少した。また、メイン会場が例年の繁華街・南浦洞から、遠く離れた海雲台に移ったため、その移動の煩雑さゆえ観客には不評を買うという一幕もあった。

 山形国際ドキュメンタリー映画祭(10月10日~16日)は、山形市という地方都市で開催されながらも、アジアのドキュメンタリー映画を積極的に紹介、広く海外でも知られる映画祭で、今回もアジアからの作品を対象とした部門「アジア千波万波」に韓国からの作品が集まった。

 近年、韓国のドキュメンタリーは国際的の高い評価を得ている。李美英監督の『塵に埋もれて』は、軍事政権下の80年、劣悪な労働環境に抗議して蜂起したサブク鉱山の労働者たちが受けた過酷な弾圧と彼ら心の傷をとらえた作品である。

 チョ・ユンギョン監督の『家族プロジェクト:父の家』は、伝統的家父長制度のあり方を、自分の家族を通して再考するもの。キム・ジナ監督の『ジーナのビデオ日記』は、約2時間半の間、ほとんど自分しか登場しないという、きわめて野心的な実験映画風の作品。

 今回の「アジア千波万波」で審査員をつとめた金東元氏は、『送還日記』を出品した。これは、かつて北朝鮮から工作員として送り込まれ、30年の長きにわたって獄中生活を送った後も、非転向を貫き、北朝鮮へ送還された元思想犯たちを取材した作品である。

 また、韓国の文化政策の現状について、韓国映画振興委員会と韓国独立映画協会という二つの組織の代表が、それぞれの活動報告を行なうレクチャーがあり、韓国政府がこの10年に、映画統制政策から推進政策に変遷してきた変遷をうかがうことができた。制作費の支援などは、アジアのドキュメンタリー映画作家たちにとっては共通の問題であり、活発な意見や質問が飛び交った。

 東京国際映画祭(11月1日~9日)では、ロッテルダム映画祭グランプリ受賞作『嫉妬は我が力』、日本で大ヒットしたホラー映画『リング』の韓国版リメイク『リング・ウイルス』、東京国際ファンスティック映画祭(10月30日~11月3日)では、日本の植民地支配が今も続いていたらという大胆な設定の日韓合作SF映画『ロスト・メモリーズ』が上映される。

 コリアン・シネマウィーク(11月4、6、8日)で上映される『ピアノを弾く大統領』は、国民俳優・安聖基の演ずる韓国大統領が、娘の通う学校の女性教師と恋に落ちるというメロドラマだ。韓国で大統領をこれほど人間味ある身近な存在として描いた韓国映画はかつてなく、好感の持てる作品だった。