韓国の高麗大学校博物館が所蔵する約10万点の民族資料のなかから、衣類、調度品、呪術具など183件210点(重要民俗資料2点)を展示する「特別展 韓国のこころと暮らし 高麗大学校博物館所蔵品展」が、9月8日まで大阪の歴史博物館で展示中だ。韓国の人々の願いや祈り、感性や美意識、行動様式など「こころの世界」を探求し、その文化的土壌を紹介する試みである。朴惠仁・啓明大教授の文章とあわせて紹介する。
もし人間の営み、つまり文化とは、「こころ」と「もの」の調和によって作り上げられたと言えるのなら、朝鮮時代の人々は、どのような生活を営んできたのだろうか。
朝鮮時代の人々の儀礼は、出産後の儀礼に始まり、誕生百日目、トル(満一歳の誕生日)のお祝いを経て、冠婚葬祭の儀礼を行った。男子による家門の永続を必須と考えた先祖伝来の観念は子宝に対する強い願望を生み、それは祈子の習俗を作り上げた。女性は山川の岩や寺をまわり、精魂込めて子どもが授かるよう祈った。生まれた赤ん坊に着せるペネッチョゴリ(産着)は、無病・長寿への祈りを込め、長寿の人の服を使って作った。
朝鮮時代の女性が着用した韓服(チマとチョゴリ)は、天と地の調和に似ている。十二単のチマは1年12カ月を象徴し、袖下のふくらみ、襟、裾まわりのバランスは、自然との調和が考慮されている。衣服の色は、富んだ者は色とりどりに染め上げた服を着用したが、ソンビ(高い学識と高潔さを備えた儒者)や庶民は、白衣を崇拝する伝統的な思想を重んじ、白色や薄い青色の服を愛用した。ただ、両親の還暦礼、回婚礼(結婚60年の祝い)といった慶事には、年をとった息子や娘も子どものときに着ていたセクトンチョゴリ(袖に5色の縞が入ったチョッキ)を着た。
年を重ねた息子や娘がこのときばかりは童心に帰って親子の情を通わせることを示すもので、親の喜ぶ顔が見たいという願いから行われた。
韓国には「薬食同源」という言葉があり、食べ物はすなわち薬であるとされてきた。無病息災や長寿を願う当時の人々の思いはトク(餅)ひとつにもそのまま表れている。
トクはうるち米ともち米を原材料に、大豆や小豆など魔よけの意味を持つ雑穀、病かた身を守ってくれるとされる朝鮮松の実、くるみ、栗といた堅果類をひとつに合わせた、いわば総合栄養食品である。
トクには文様を押して美しく飾るものや、早春のつつじ、真夏の鶏頭、晩春の菊などを摘み取り、白く丸い餅の上に直接花を押し付ける花煎という餅もあった。秋夕(韓国の旧盆)の風物であるソンピョン(餅)は、伝統的なトクの情緒を際立たせる。
朝鮮時代の人々の歴史は、「もの」の安定と「こころ」の豊かさを現実に具現させる努力の歳月だったと言えるのではないだろうか。(朴惠仁・啓明大学教授、同展図録より要約・転載)
◆ 韓国のこころと暮らし展 ◆
会 期 : 9月8日まで(毎週火曜日は休館)
主 催 : 大阪歴史博物館・高麗大学校博物館
会 場 : 大阪歴史博物館特別展示室
観覧料 : 大人1,000円、高大生750円
TEL : 06・6946・5728