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2003/08/22

<韓国文化>書 評

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◆ 韓国における「権威主義的」体制の成立  木村幹著

 本書はまず、第2次世界大戦後の新興独立国における「権威主義体制化」、その最大原因の一つは、植民地支配からの脱却過程において、植民地国家から受け継がれた強大な行政組織を傘下に収めた”建国の父”率いる「与党」に対し、対抗勢力が自らの足場さえ固められなかったことにあると説明。李承晩政権の成立過程を追う。

 その李承晩政権を語るときに外せない要素として、筆者は韓国有数の新聞「東亜日報グループ」の足跡をたどる。全羅北道の富裕な地主層から身を起こし、早稲田大学に留学した金性洙は、朝鮮総督府系の金融機関から資金援助を受けて、巨大コンツェルンを築く。金性洙は大隈重信を見習い、朝鮮で私学と新聞経営を成功させる。

 戦後は米軍政に協力し、警察権力を手中にし、李承晩に協力することでグループの維持を図る。しかし、大統領に就任した李承晩は、親日派とみなされた東亜日報グループとの決別を決意、グループの解体に追い込む。

 こうして「権威主義的体制」構築に成功した李承晩だが、そのカリスマ性の消滅とともに時代的使命を終え、60年の四月革命で退陣し亡命の道を歩む。

 解放以後の15年間、韓国政治がどういうドラマを展開したか克明に描かれ、韓国戦後史を理解する貴重な一冊となっている。特に日本であまり知られていない東亜日報グループの盛衰は、興味深いものがある。(ミネルヴァ書房、A5判、296㌻、4800円)

  きむら・かん  1966年、大阪生まれ。京都大学法学部卒。
  同大学大学院法学研究科修士課程修了。97年から神戸大
  学大学院国際協力研究科助教授。


 ◆ 21世紀韓朝鮮人の共生ビジョン  徐龍達編著

 在日外国人の大学選任教員の先駆けで、在日の地位向上や差別撤廃に身を粉にして戦い続けてきた徐龍達・桃山学院大学教授が今年3月、70歳で定年を迎え退官した。

 本書は、徐教授の古希を祝う記念論文集で、徐教授が主導する国際在日韓国・朝鮮人研究会(国際韓朝研)と在日韓国奨学会(韓奨)が主催したシンポジウムやフォーラムで発表された学術研究論文と、古希を祝い識者から寄せられた論文を収録している。

 執筆者は、徐龍達氏をはじめ、池明観・翰林大学日本学研究所所長、姜尚中・東京大学教授、近藤敦・九州大学教授、田中宏・龍谷大学教授、姜徳相・滋賀県立大学名誉教授などそうそうたるメンバーで構成されており、在日の歴史から権益、差別、参政権など幅広い分野にわたって、論陣を張っている。

 特に在日とは何か、日本社会で共生していくにはどうすればよいのか、在日の未来像といった核心的問題が多角的視点から論じられており、在日問題の百科全書的な役割を果たす本である。

 中央アジア、ロシア沿海州、サハリンの韓国人問題にも多くのページを割き、グローバルな視野で韓民族のアイデンティティーに言及しており、21世紀の共生社会をめざすうえで、大いに参考になる。

 本書はまた、閉鎖的な日本社会で国籍差別と戦い続けてきた徐龍達氏の功績についてもふれており、在日の権益獲得運動の一端をうかがい知ることができる。(日本評論者、A5判、793㌻、9200円)

  ソ・ヨンダル  1933年、釜山市生まれ。神戸大学大学院博
  士課程修了。桃山学院大学名誉教授。国際在日韓国・朝鮮
  人研究会会長。在日韓国奨学会理事長。


 ◆ 韓国 歌の旅  安準模著

 10年程前、韓国人ビジネスマンの友人が涙ながらに歌ったもの悲しい歌が脳裏に焼きついている。その歌は「朝露」。1970年に作曲された韓国版フォークソングで、87年に学生ら100万人がこの歌を歌ってソウルの真ん中をデモ行進した。95年に東亜日報が選定した「韓国歌謡100曲」の第1位に選ばれ国民的な歌である。

 韓国には国民の誰もが愛唱する歌が数多い。1920年に洪ランパが作曲した「鳳仙花」はその代表だろう。植民地時代に抵抗歌として歌い継がれ、現在も南北ともに愛され広く歌われている。

 韓国の歌は、時代の影響を強く受け、芸術性と民族性が結合し歌詞と曲が一体となっているところに最大の特徴がある。芸術性の高いラブソング「待つ心」の歌詞にも、時代の影響が色濃い。

 新羅王の忠臣・朴堤上は、日本に人質としてとらわれている王子救出に成功したが自らは捕われ拷問死した。その妻は夫を待つ続け石になってしまったという説話に基づくものだ。

 植民地時代の30年代には「他郷暮らし」「木浦の涙」「涙にぬれた豆満江」など肺腑をえぐるような歌が数多く作曲されたが、時代を超えて歌い継がれてきたのは芸術性の高さゆえであろう。

 著者は日本の事情にも詳しく、『釜山港へ帰れ』は日本で韓国歌謡のブームをもたらしたが、日本語訳の歌詞には原詩の根っ子にある民族の歴史的意味が消し去られていると指摘。「韓国では『帰ってこい釜山港へ/恋しい私の兄弟よ』の『兄弟』は植民地時代に日本に強制連行され故郷に戻れない在日同胞を意味している、と思って歌っている」と、韓国と日本で歌のイメージに違いがあることに注意を喚起している。

 本書では、このように国民的に歌い継がれてきた歌の中から29曲を選んで、その背景や逸話などが紹介されており、歌の理解を促してくれる。29曲すべての楽譜と歌詞の原文と日本語訳も掲載されている。また、「朝露」など10曲を収録したCD付きだ。前田真彦訳。(白帝社、A5判、179㌻、2000円)

  アン・ジュンモ  1959年、全羅北道生まれ。横浜国立大学大
  学院教員研修課程修了。日韓合同授業研究会韓国側初代
  会長。98年から02年まで白頭学院建国中高等学校で音楽教
  師。


 ◆ となりの韓国人 傾向と対策  黒田福美著

 韓国と関わって20年。日本の女優の中で一番の韓国通である著者が書いた最新の韓国体験エッセイだ。

 2000年末から2年間、ソウルに家を借りて韓国社会を様々な角度から観察しただけあって大変リアリティーがあり、韓国人のものの考え方、日常生活が生き生きと伝わってくる。

 この本の冒頭で著者は、「私たち韓国人は失敗というのはあり得ることだと思っている。しかし、日本人は失敗はどんなときでもはじめから決してあってはならないと思うようだ」という韓国人の指摘を紹介している。

 この文化の違いを無視すればトラブルは起こる。実際に韓日間のトラブルの多くは文化ギャップが原因だ。本書はその文化の違いが分かるように卑近な例を沢山あげて説明しており、トラブル解消法の手引書としても読める。

 特に、韓国人を象徴する「分かち合うという文化」に関する部分を読むとジーンとなってくる。物を請う人に寛大であり、災害にあった人を救援する心がとても強い。

 著者はいう--。植民地支配や韓国戦争など歴史的苦難を乗り越えることで、「人の痛みを思いやる気持ち」がこの国の人々に深く染み付いたのだろう。韓国人はともすれば私たちが冷酷に無視してしまう人でさえ、捨て置かないところがあるのだ。

 大変に大事なポイントをついた点だろう。

 大変平易な語り口で読みやすく余韻も残す。この本を読めば韓国が好きになること間違いない一冊だ。(講談社、四六判、236㌻、1500円)


 ◆ 韓国はドラマチック  田代親世著

 「シュリ」の大ヒットで、日本に韓国映画ブームが到来し、「二重スパイ」「猟奇的な彼女」など話題作が次々と日本で公開されるようになった。

 映画だけではない。Kポップスと呼ばれる韓国歌謡も人気を集め、いまや韓国のエンタテインメントは日本を席巻している。さらに、ここに来て、韓国ドラマが大ブレークし、衛星放送で放映中の「冬のソナタ」をはじめ、「ロマンス」(東京MXTV)など話題作が目白押しだ。

 なぜ、韓国ドラマは日本人の心をとらえるのか。本書は、「冬のソナタ」のロケ地ガイド、主役のペ・ヨンジュンへの直撃インタビューなど特集を組んでいるほか、「ヒョンジョン愛してる」の撮影現場、俳優養成所の取材、BS日本テレビで放映された「星に願いを」のシナリオライター取材など、韓国ドラマの舞台裏を解き明かしている。

 映画についても楽しい話題が豊富で、この本を読めば韓国ドラマ・映画が2倍楽しくなる。(東洋経済新報社、A5判、231㌻、1800円)


 ◆ 韓国語会話 とっさのひとこと辞典  金裕鴻著

 本紙に「ハングンマル・こんなときに一言 初歩から学ぶ韓国語会話」を連載中の金裕鴻さんがまとめた携帯版の韓国語会話集。

 あいさつ、毎日の生活、職場や学校、旅行、恋愛・結婚、冠婚葬祭など、様々な場面で使われる韓国語表現約5000例を収録した、韓国語会話集の決定版である。

 韓国語の発音がわかるカナルビ付きで、しかも目上の人、親しい間柄、目下の人など会話の相手別に分けた表現が記載されており実用的。

 日本語・韓国語による索引も付いているので、困った時もすぐに表現を探すことが出来る。ビジネスから観光まで、どんな場面でも幅広く活用できる。ビジネスレターやEメールにも活用可。

 別売でCD(総収録時間約7時間、6枚組、5800円)も発売されているので、独習にも最適。(DHC、550㌻、3000円)


 ◆ 青の奇跡  小山稔著

 世界でも最も難しいとされた高輝度の青色LED(発光ダイオード)を発明し、「日亜化学」という徳島の一企業を世界のトップ企業に引き上げた中村修二氏(現カリフォルニア大学教授)は、その特許めぐる訴訟もあって有名だ。

 だが、発明が製品となり市場に出るまでには別の技術者集団の努力があったことも忘れてはならないだろう。 

 青色LEDを事業化するための「Nプロジェクト」を結成、そのリーダーを務めたのが著者だ。商品化できるという技術者としての確信は、前の会社であるスタンレー電気時代に赤色LEDを商品化した経験があったからだ。もちろん、商品化するうえで技術的な困難を克服しなければならなかった。日本の奇跡の経済成長は優れた技術者群によって成された。

 NHK番組の「プロジェクトX」で多くの技術者たちの苦闘の物語が放送されているが、本書もその一つといえよう。青色LEDの成功も、主役は中村氏だが、脇役である著者のような技術者の存在抜きには語れない。このような技術者を韓国大手メーカーは欲しており、例えばサムスン電子に技術指導者として招かれ7年間勤務した吉川良三氏のケース(同氏著「神風がわく韓国」に詳しい)もある。

 半導体メモリー分野で世界のトップを走る韓国もLED分野では後を追う立場だ。韓国の企業、技術者にとっても貴重な一冊だ。(白日社、四六判、273㌻、1800円)


 ◆ 夫・力道山の慟哭  田中敬子著

 戦後最大のスーパースター、プロレスラーの力道山が暴漢に刺されて亡くなったのは1963年12月15日のことである。

 それから40年、夫人の田中敬子さんが長い沈黙を破って、生前の力道山の思い出を語ったのが本書である。

 礼儀正しく誠実な人柄にひかれて結婚を決めたこと、民族差別がまだ激しかった時代、婚約直後に「北朝鮮の出身だと知っていたか、それでもいいか」と出生の秘密を明かされ、「あなたがいい人だったら何の問題もない」と答えた話、死の間際、うわごとで「おれは死にたくない」ともらしたことなど、知られざるエピソードが次々と語られる。

 「朝鮮半島がスイスのようになればいいなあ」と力道山が語っていたという事実は、植民地支配を体験した在日韓国人・力道山(韓国名・金信洛)の苦悩を伝える。(双葉社、四六判、224㌻、1400円)