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2003/04/25

<韓国文化>書 評

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 ◆ 体験的朝鮮戦争  麗羅著

 本書は在日作家の韓国戦争従軍記である。在日韓国人青年学生義勇軍として1年間、通訳や後方勤務した体験をもとに韓国戦争を見つめ直した労作だ。
 1950年6月25日の日曜日、27歳の著者は東京都下の米軍基地でクラブのマネージャーとして働いていた。そこで、仲のいい米将校から祖国で戦争が始まったことを知らされる。
 「祖国は植民地支配から解放されたのに、たった5年もしないうちにどうして戦争をしなければならないのか」と怒りが込み上げてきた。韓国にいる家族は大丈夫だろうか。韓国語と英語もできるので何かの手助けができると考え従軍した。
 著者がこの本を書いた最大の動機は、3年間にわたり同族が殺しあう戦争をし、膨大な犠牲を払ったにもかかわらず、その教訓が生かされていないという痛烈な反省からだ。本書では戦争前史に多くをさき、左右の対立で金九や呂運亨ら民族指導者が暗殺される当時の緊迫した状況も再現している。戦争は数百万人の人命を奪い、国土の8割を焦土と化し、南北対立を決定的にした。本書を読めば、その解放直後から1953年の休戦までの苦難の韓国現代史を概観できる。また、植民地時代に日本軍に入隊、解放後は共産主義運動に走ったものの疑問を抱き再び日本に渡り、韓国戦争に従軍するという波乱万丈の20代を駆け抜けた在日青年の物語としても読める。
 本書は11年前に出版された復刻版だが、北朝鮮の核問題などで緊張しているいま、韓半島での平和が絶対不可欠であることが新鮮な響きを伴って迫ってくる。(晩聲社、四六判、344㌻、1600円)

  レイ・ラ 1924年韓国生まれ。韓国戦争に従軍。
  83年、「桜子は帰ってきたか」でサントリーミステリー大賞を
  受賞。2001年死去。


 ◆ 私はリトル・アインシュタインをこう育てた  陳慶恵著

 医科大学院を夢見てロヨラ大学に通う矢野祥君は、9歳の大学生だ。日本人の父・矢野さんと、韓国人の母・陳慶恵さんの間に生まれた子である。8歳でSAT(学習能力適性試験)Ⅰで1500点(1600点満点)をとり、9歳で高校卒業の学位を取得した。米国のマスコミは、「米国で一番幼い大学生」と紹介し、韓国でも話題になった。
 この「リトルアインシュタイン」と呼ばれる天才少年を、家族はどう育てたのか。その子育て論について陳慶恵さんがまとめたのが本書だ。
 陳さんは、テレビを見ない環境を家庭でつくったこと、家族での「対話の時間」を重視し、子供たちにも意見を聞いて知的好奇心を刺激したことを挙げる。この対話の時間を通して、学ぶことに対しての楽しさ、謙虚さ、積極的な態度を持つようになったことが大きいとしている。
 また、「子供は放っておいてもひとりでにちゃんと育つ」とは考えず、子供の能力を100%発揮させるために、子供の教育を塾や教材や環境にまかせておかず、多くの時間を投資して熱心に勉強し研究してきたと述べている。
 そして子供達には、失敗を恐れないこと、失敗から立ち直る心がまえと勇気の大切なこと、自分を信頼し、明るい顔で過ごせば性格も楽天的になり、人に対する思いやりも持てることを伝えてきたとしている。
 親子の関係、スキンシップ論としても興味深く読める。家族関係・親子関係の断絶が話題となる日本社会、陳さんの子育て論を参考にしてみてはいかがだろうか。(廣済堂出版、四六判、256㌻、1500円)

  チン・ギョンヘ ソウル生まれ。1982年に米国留学し、オハイ
  オ大学で美術と美術史の学士・修士学位を取得。現在は日
  本人の夫とともにシカゴ郊外に暮らす。


 ◆ 外国人よろず相談  東京都外国人相談研究会編

 自治体として初めて東京都に外国人相談の窓口ができたのは、在留外国人が増加した1988年。以来、今年で15年が経過しようとしている。開設当初はどんな相談が来るのか想像がつかず、一つひとつの事例をもとに相談員としての研修を積み重ね、質問に応じる体制を作ってきた。
 本書は、その東京都の外国人相談窓口が、どんな相談を受け、どんな回答をしてきたかをまとめたもので、全国の自治体、または市民団体や個人で外国人相談に乗っている人たちの参考になるようにと作られた。
 電話やインターネットの設置方法、ペットの出入国、運転免許証の書き換えといった日常生活に関する質問から、外国人登録の手続き方法、妻や子どもを日本に呼び寄せたい(上陸申請)、在留特別許可の申請方法といった入国・在留に関する相談、そして交通事故にあった、友人が逮捕された、労働災害などの事件・事故、そして婚姻・国籍、教育・余暇にいたるまで、数多くの事例が、その対処方法とともに紹介されている。
 外国人が何に悩んでいるか、多文化・他民族共生社会をつくるにはどうすればいいのか、そういう視点でも参考になる。(日本加除出版、A5判、476㌻、4700円)


 ◆ 外国切手に描かれた日本  内藤陽介著

 世界に切手コレクターはあまたいるが、切手などの郵便資料を駆使して国家の変遷やイデオロギー、国際関係を解き明かそうとしている研究者はまれであろう。著者は、本紙に「切手で見る韓国現代史」を連載中の気鋭の「郵便学者」である。
 本書は、諸外国が発行した日本にかかわる切手を分析し、彼らが日本をどうとらえているのかを解明している。パリ万博で火がついたジャポニスムによって「フジヤマ・ゲイシャ」を題材にした日本切手がブームとなり、東京五輪をきっかけに柔道などのスポーツ切手の発行が盛んになる。こういった日本切手をみると、日本の国際認知度の変遷ぶりがわかり興味深い。
 特に、外国切手に取り上げられた日本人は、最新の小泉純一郎首相(北朝鮮、日朝首脳会談、2002年)まで約100人にのぼっており、皇族から歌手スポーツ選手と幅広い。日本人として最初に北朝鮮の切手になった井上周八(農業経済学者。主体思想の擁護で国際金日成賞受賞)なども紹介してあり、実におもしろい。
 さらに、朝鮮王朝が近代郵便制度を導入し、最初に発行した切手が日本製だったという史実など、切手が語る意外な史実に驚かされる。(光文社新書、280㌻、800円)


 ◆ 「正しい未知」  董智成著

 在日3世青年が書いた珍しいスタイルの詩作集だ。本にページ数は打たれていない。279のフレーズからなる。
 「直感の軽さ、重さ」「耳をすまして、気をきかせて、よく見て、感覚を研ぎ澄まして」
 子供のころから書きとめたものをまとめたというが、なかなかどうして読ませる。リズム感もある。シンセサイザーをこなすアーティストでもある。
 「がんばればいいのか?/結果を出せばいいのか?/がんばれば結果がでるものか?/がんばってもしょうがないものか?」
 今は時代の転換期にある。新たな芸術様式の模索も始まっている。かつて、19世紀フランスを代表する象徴派の天才詩人、ランボーは詩集「地獄の季節」で世界を唸らせたが、この詩作集は新しい時代を切り開こうとする思い入れの塊とみることもできよう。
 タイトルは「正しい未知」とやや奇抜だが、極端を排する中であるべき姿を見出せると信じているようだ。新しい才能と期待したい。(文芸社、四六判、1000円)


 ◆ FLY,DADDY,FLY  金城一紀著

 話題を呼び映画化された直木賞受賞作「GO」に次ぐ長編小説第2作。「GO」の主人公は在日朝鮮人青年だったが、今回は47歳の日本人サラリーマンだ。破綻した世界を取り戻すための、ひと夏の冒険譚である。
 最愛の娘がある日、高校総体でボクシング3連覇を狙う有名高校の高校生に殴られ大怪我をした。だが、娘の声なき叫びに応えてやれず、逆に病院で加害者らに馬鹿にされ、娘からは見舞いも拒絶されてしまう。
 何もできない中年の私。この事件を契機に、毎日満員電車で会社と家の往復をする主人公の日常は大きく変わる。落ちこぼれ高校生軍団の在日朝鮮人から戦い方の訓練を受け、娘の復讐を果たすというストーリーだ。
 「GO」の後、3つの短編を収めた「対話編」では在日をテーマにしていない。この小説でもテーマは在日ではないが、特訓をする朴舜臣の役どころが在日性を漂わせる。しかし、ここでは親子関係に対する濃密な思い入れが感じられ、「くたびれた世の中の父さんたちよ、自由に飛んでほしい」とのメッセ―ジを読み取ることの方が普遍的だろう。
 センテンスを短く切るハイテンポの文章。読者を一気に引き込む表現力は一段と磨きかかかったようにみえる。先行きが楽しみな在日3世作家だ。(講談社、四六判、245㌻、1180円)


 ◆ 朝鮮半島対話の限界  白ヨップ

 米国、中国、北朝鮮の3者協議が始まり、北朝鮮の核開発問題の解決に向けた動き出したが、果たして北朝鮮の核問題は平和的に阻止できるのか。
 著者は、韓国軍初の陸軍大将であり、韓国戦争では第1師団長として戦い、休戦会談の韓国側代表を務めた。以来、北朝鮮を分析し続けてきた著者は、「北朝鮮は対話が成り立たない相手だ」と切って捨てる。
 北朝鮮は韓国戦争終結後、一切の国際協定を無視し、約束を破り続けてきたと著者は指摘、韓日米の自由民主主義勢力が一丸となって北朝鮮の独裁体制を消滅させる方向にもっていかなくてはならないと強調する。
 興味深いのは著者が韓半島を地政学的見地からとらえている店だ。大陸への入り口であり、海洋への出口である半島は、大陸と海洋の二つの勢力のせめぎ合いの場となってきたとし、海洋国家(日本、米国)と連携した韓国が繁栄してきた史実にふれ、米日との協調による韓国主導の南北統一が北東アジアの平和と安定に不可欠だと説く。(草思社、四六判、198㌻、1500円)


 ◆ 朝鮮民族の知恵  朴禮緒著

 民族や国家を知るには、その国の伝統文化や人々の生活にふれるのが近道だろう。韓半島は古来から高度な文明を持ち、日本に仏教や千字文(漢字)を伝え、日本の文化形成に多大な影響を与えた。
 本書は、「生きる」「創る」「究める」「祈る」「蘇る」の5項目に分け、衣食住の生活文化から歴史、芸術、科学、技術など韓半島固有の文化を紹介したもので、韓民族の知恵が凝縮されている。
 取り上げられているのは、チマ・チョゴリ、キムチ、高麗人参、オンドル、木綿、金属活字、火薬武器、八万大蔵経などで、すでに日本人になじみの深いものもあるが、さまざまなエピソードが紹介され、楽しめる。
 例えば、高麗紙を歴代の中国皇帝が愛用していた話や、高麗が発明した金属活字がヨーロッパに伝わり、グーテンベルクの活版印刷の発明につながったという話は「目からうろこ」で、韓民族の知恵の高さと進んだ文化に改めて感心させられる。(雄山閣、四六判、212㌻、2000円)


 ◆ 「原罪」としてのナショナリズム  金昇俊著

 ナショナリズムが「自然」なものでも「当然」なものでもなく、国民国家によって恣意的に作られたものであり、「性悪者」であることを、平易な文章で語っている。
 韓国生まれの著者は、小学校2年生になる1953年に日本に来た。以後、73年にカナダに渡るまでの20年を日本で在日コリアンとして過ごす。
 「どんなに優秀でも在日は、パチンコ、鉄屑業、板金塗装といった限られた職種を選ぶしかなかった。通名をつかうことにも関連するが、在日であることに劣等感をもつ。私がカナダへ移住したのも、それが嫌だったからだ」
 他者を受け入れない日本社会のナショナリズムを批判するとともに、「在日は日本社会への抵抗概念としての在日ナショナリズムを捨てよう。在日を楽しんで生きよう」と訴える。また韓国系日本人を日本社会に認知させることが有効と提起し、帰化手続きの簡素化を働きかけてはと提案する。在日論としても読み応えがある。(教育史料出版会、四六判、298㌻、1750円)