韓国で400万人動員の大ヒットを記録した映画「おばあちゃんの家」(原題:チブロ)が、29日から東京の岩波ホールで公開される。田舎に暮らす祖母と小学生の孫のひと夏の交流を描いた映画が、なぜこれほどまでにヒットしたのか。このほど来日した李廷香監督に話を聞いた。
「亡くなった私のハルモニ(おばあちゃん)は、私に対し常に限りない愛情を示してくれた。無条件に私を受け入れてくれた。ハルモニの大きな愛を表現したかった」と語る李ジョンヒャン監督は、韓国映画界では数少ない女性監督の1人。
すべてのおばあさんに捧げられた映画「おばあちゃんの家」は、韓国で多くの人々の心を動かし、400万人動員という異例の大ヒットを記録し、2002年大鐘賞(韓国版アカデミー賞)で最優秀作品賞、最優秀脚本賞、最優秀企画賞を受賞した。
物語は、母親と2人でソウルに住むサンウが、ある日突然、田舎のおばあちゃんの家に連れて行かれる。母親が新しい仕事を見つけるまでの間、おばあちゃんと暮らすことになったのだ。読み書きができず口も利けないおばあちゃんをバカにし、不自由な田舎生活に不満を爆発させるサンウはわがままのし放題。
しかし決して叱らず、サンウの願いを聞くおばあちゃんにサンウは少しづつ心を開いていく。やがてサンウの心におばあちゃんに対する信頼と愛情が芽生えたとき、母親は迎えにやってくる 。
「2年前に90歳で私の母方の祖母は亡くなった。祖母は私のストレス発散の対象で、私は両親にしかられると祖母に当たり散らしていた。貯めたお小遣いを地下鉄に忘れて無くし、その悔しさを祖母にぶつけたら、祖母はくしゃくしゃになったお札をくれてなだめてくれた。しかし、祖母が生きているとき『ありがとう』と言えなかった。それで映画では、ゲーム機の乾電池代をくれたおばあちゃんのシーンを設定し、『ごめんなさい。ありがとう』という思いを込めた」
「誰にでもおばあちゃんはいるし、都市化が急速に進む中で失われたものを描いたために多くの人々の心を打ったと思う。サンウは私を含めた現代人全ての姿だ。私たちは誰かに守られ愛されたいと常に願っている」
「大切なことは、私を含めて全ての人たちは、愛されることによって成長できるということを見せたかった」
おばあちゃん役の金ウルブンさんをはじめ、サンウ役を演じた子役のユ・スンホ以外のキャストは全て映画出演経験などない地元住民ばかりを起用した。
「ロケ地(忠清南道・永同)を見て山から降りた日に、遠くを歩く金ウルブンハルモニを見た瞬間『あの人だ!』と思った。ハルモニが『私はできない』と言うのを説得して出演を承諾してもらった。ハルモニに対する思い入れが強くなって、6カ月の撮影が終了して村を去る日、村人とスタッフ全員が涙なしではいられなかった。私もハルモニと抱き合って号泣した。ハルモニが『私の生涯の中で一番幸せな時間だった』と言われてうれしかった」
金ウルブンさんは映画が評判になってマスコミや観光客に追いかけられ、大変だったようだが、それも落ち着いて、現在も同じ村に住んでいるとのことだ。
「対立していた人が、相手のことを理解することによって和解するのを描くのが好き。世界平和も同じと思う」と語る李監督。次回作もまた、「平凡な人たちの暮らし、誰もが共感できる作品を作りたい」と締めくくった。