ここから本文です

2003/01/10

<韓国文化>韓日音楽事情-音楽ジャーナリスト 川上英雄氏-

  • bunka_030110.jpg

    かわかみ・ひでお  1952年、茨城県土浦市生まれ。日本大学芸術学部卒。著書に「激動するアジア音楽市場」など。

 サッカーワールドカップの熱狂から、拉致事件、北の核開発問題更には南の大統領選挙と半年の間、次々と韓半島を舞台にした話題が全世界を駆け抜けたこともあって、すっかり影が薄くなってしまったが、昨年後半から新春に至る現地ソウルでリポートした最新音楽情報を紹介して行こう。

 日本では年末恒例の国民的行事『NHK紅白歌合戦』に、従来の金蓮子や桂銀淑など艶歌ムード歌謡系歌手に代わって、ヘイベックス所属の人気シンガーBoAが出場し、日本でのKポップ・シーンの世代交代を強烈に印象付けた。

 日韓の若者たちに高い人気を誇る彼女は、R&B(リズム・アンド・ブルース)からダンス・ミュージック、スローなバラードとバツグンの歌唱力で『LISTEN MY HEART』など数枚のアルバムが好セールスを更新する新星で今年もボーダレスな活躍が期待される。

 ところで今、日本では、韓国歌謡界の女王李美子の娘として知る人ぞ知るチェウニ(鄭在恩)が、99年のデビュー以来着実に人気が上昇し静かなブームを呼んでいる。

 すこしハスキーで透明感溢れる美声と程よい哀愁感が醸し出す独特の雰囲気は、今なお韓国歌手イコール艶歌・ムード歌謡という方程式が色あせていない日本の歌謡界に少なからぬインセンティブを与えている。

 デビュー曲でロング・セラーを更新中の『トーキョー・トワイライト』に続く、『Tokyoに雪が降る』、『星空のトーキョー』など一連の〝東京シリーズ〟は最近珍しいマキシ・シングル版が売れる歌手として不況の音楽産業で大いに気を吐いている。

 さて、相変わらずダンス・グルーブ系ミュージックやスロー・バラ―ドが全盛を続ける韓国のKポップ・シーンに、このところインディーズ・ブームの波が押し寄せている。

 音楽産業界でも企業再編成の動きがあり、80年代以後急速に国際化が進んだ業界地図に今年は少なからぬ変動が起こるかもしれない。

 日本同様に音楽人口の若年化は著しく進んだものの、不況は深刻で、艶歌(トロット)の衰退は決定的だ。企業サイドも日本で言う団塊の世代に当たる40代にターゲットを定め、懐かしのジャズ・スタンダードやビートルズ、ローリングストーンズ等のロック全集モノの拡売に尽力しているようだが、日本に比べ市場が小さいだけに数字は伸びていないとも聞く…。

 そうした状況下、最近の反米運動の余波などもあって低迷を余儀なくされている欧米系アーチストに代って、認知度が上昇しつつあるのが日本を題材としたKポップやアコースティック、ジャズなどの和製ソフト。

 まさか、乱立するとんかつ屋など、巷の日本食ブームが背景にあるのかどうか定かではないが、売れっ子の女性アイドル、イ・スヨンが、日本の東北地方をイメージ・コンセプトに取り入れた『MY STAY IN 仙台』(ソウル音盤)を発表。このところヒット・チャートを上昇中だ。

 バラードからテクノまで円熟味溢れるその歌声はメロウな魅力に満ちているが、宮城県の温泉町を旅する異国の女性――という視点が面白く、日韓もやっと普通の外国同士になったと妙に嬉しくさせる一枚だろう。

 他にもヒーリング・ミュージックでは第一人者と評価される宮下富美夫やジャズ・フュージョンのカシオペア(共にJAVEエンタテインメント)など続々と新作を発表する日本人アーチストも増え、あっさり味の〝和モノ〟が現地でも一大ジャンルと化しつつある。

 最後に、筆者だけが独占的に入手したホットな話題をひとつ紹介しよう。

 李美子と並ぶ韓国ポップス界の女王としてショー・ビジネス界に君臨するパティ・キムの二女、カミラ(CAMILLA)の歌謡界デビューがこの春、実現する。

 パティの再婚した夫で、イタリア人実業家のアルマンド・ゲディーニ氏との間に生まれたカミラはブルック・シールズを彷彿とさせる美貌の持ち主…。イタリア人の父親譲りか、その陽気なパーソナリティーと母親譲りの確かな歌唱力は久々の大型新人との呼び声も高い。近々英語と韓国語によるオリジナル・アルバム(ソウル音盤)の発売が予定されており、2003年の春一番にふさわしい明るい話題になること請け合いだ。

 ますます面白くなってきたKポップ・シーンから、今年も目が離せそうにない。