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2004/10/01

<韓国文化>歴史に埋もれた女医を発掘

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    大河ドラマ「宮廷女官 チャングムの誓い」より。左が主演の李英愛 (c)2003-2004MBC

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    ささき・なおこ  朝鮮料理研究家。東京外国語大学朝鮮語学科卒業。モランボン味の研究所を経て「KOREAN COOKINGジョン・キョンファスタジオ」に勤務。

 話題の韓国ドラマ「大長今(テジャングム)」が、10月7日からNHK・BS2で放映が始まる(邦題「宮廷女官チャングムの誓い」)。韓国では昨年9月から半年間、全54回にわたってMBS(文化放送)で放映され、賢く美しい長今を演じる女優・李英愛の熱演もうけて、ドラマ史上最高の46・2%という平均視聴率を記録した。料理研究家の佐々木直子さん(写真・上)に、長今について寄稿してもらった。

 ドラマの背景となる時代は、500年あまり続いた朝鮮王朝時代の中期、第11代・中宗(在位1506~1544)年間。宮中を舞台に、賤民出身でありながら幾多の苦難を乗りこえ、宮中の料理人から遂には医官として最高の地位にまで昇りつめた、長今という女性の半生を描いた大河ドラマだ。
 
 長今は実在した人物で、史書『朝鮮王朝実録』中、「中宗実録」には、次のような記述をはじめ、長今に関する10回以上もの言及がある。

 「大妃殿の病状がよくなると、王が薬房たちを呼んで褒美を与えた。(略)医女、信非と長今にはそれぞれ米と豆を十俵ずつ与えた」

 「王が病を患うと、政院では病状を伺った。(略)朝、医女長今が内殿を出て曰く〈初めて下気が通じ、大変気分がよいとおっしゃいました〉」「長今は産婆の功がある。五苓散・蜜釘などの薬材を使った」

 史実から伺える長今像は典型的な「医女」だが、ドラマでは前半、宮中の専門料理人をめざす。

 この点について、演出・監督・プロデューサーを務めた李ビョンフン氏(59)は次のように語る。

 「『朝鮮王朝実録』の〈長今は補養食に強い〉という記述をみて、これはまちがいなく料理にも一見識あると思った」「史実どおりに長今を医女としてだけ描いていたら、前作の『許浚』と似ていると言われただろう。そこで、料理の話から始めたのだ。料理と医術を2対3の割合にしようと考えていたが、結果として3対2と、料理が多くなった」

 李ビョンフン氏は前作、17世紀初頭に明と朝鮮の医術を統合した名著『東医宝鑑』の編者、許浚の一生を描いた大河ドラマ『許浚』でも、幾多の受賞に輝いている。時代劇制作へかける情熱について、「わが国の歴史にも英雄はたくさん埋もれており、それを発掘し国民に知らせることが使命」「これからも、歴史に埋もれた小さな英雄、とりわけ平民や身分の低い人々の話を発掘してドラマ化したい」と語っている。

 それでは次に、このドラマのもう一つの魅力、宮中料理について見てみよう。

 このドラマでは毎回、今では見ることもできないような珍しい宮中料理が出てくる。朝鮮王朝時代の宮中料理は、王朝最後の厨房尚宮(宮中料理人)を務めた韓煕順氏から直接教えを受けた、韓国重要無形文化財の黄ヘソン氏が体系化・文献化したことにより、現在に伝わる。今回の番組撮影にあたっては、黄氏の長女、韓福麗氏が院長を務める「宮中飲食研究院」が全面的にバックアップしているため、非常に貴重な映像が得られたわけである。

 もともと、韓国料理においては、宮中と民間でそれほどちがいがなかったといわれるが、全国各地から集まった穀物、果物、肉、野菜などさまざまな進上品を使い、腕のよい専門料理人によって作られた宮中料理は、当時最高の水準だったにちがいない。

 ドラマの展開次第で、短時間しか画面に現れない料理もあるが、特殊な料理、特殊な宮中用語を含めて、見どころは多いといえよう。(日本語版の宮中料理字幕監修は、在日の朝鮮料理家、全京華氏が担当)