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2004/09/17

<韓国文化>韓国ドキュメンタリーの新風

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    『塵に埋もれて』(写真・上)と『ジーナのビデオ日記』(写真・下)

 「山形国際ドキュメンタリー映画祭」で昨年上映された作品を中心に、116作品を紹介する「ドキュメンタリー・ドリーム・ショー - 山形in東京2004」が、都内で開催中だ。韓国からは5作品が上映される。その中から新進女性監督による『塵に埋もれて』(イ・ミヨン監督)(写真・上)、『ジーナのビデオ日記』(キム・ジナ監督)(写真・下)の2本を、自作を語る監督の言葉とともに紹介される。

『塵に埋もれて』

 1960年代以降、サブクを含む韓国の山間地帯は炭鉱によって開発され、鉱山労働者は過酷な労働条件を甘受せざるをえなかった。80年、韓国は独裁者の死を機に政治的に雪解けの時代を迎えた。その年の4月、かつて無慈悲で独裁的な開発の犠牲となった鉱山労働者と住民の怒りが一気に爆発したのだ。

 サブク蜂起に関する話を初めて聞いた時、歴史的な重みを持っているにもかかわらず、この事件に一度も光が当てられてこなかったという事実に驚いた。それと同時に、蜂起の主体である鉱山労働者と住民が、この事件に対して自負心ではなく、無念さや屈辱感を持っている点に疑問を感じた。

 数回に渡って手紙や電話のやりとりをしたり、直接訪ねたりしたが、鉱山労働者と住民にはなかなか会えなかった。その理由は、事件関係者が暴力と恐怖の記憶を持っているからだった。私はそのことを後になって少しずつ知ることになった。言うなれば、関係者は今も採掘場の奥から出て来られずにいるのだ。

 90年代半ば以降、軍事独裁時代の多くの事件を振り返ろうとする動きがあるが、サブク蜂起は依然として取り残されたままである。

◆ 作品紹介 ◆

 軍事政権下の80年韓国。炭鉱の劣悪な環境に抗議したサブク鉱山の労働者たちが蜂起し、武装警察が出動する暴動に発展。当局は81人の労働者を連行し拷問を加えた。20年後、会社や当局の責任者は韓国社会の頂点に上りつめ、元労働者は拷問の恐怖とその後の社会的な差別で心身ともに深い傷を負っていた。

  イ・ミヨン  75年生まれ。98年高麗大学卒業。作品に『Home of Dust』(1999)ほか。本作はソウル人権映画祭などで受賞。


『ジーナのビデオ日記』

 大人への境界線を越えようとしている娘が母親を見つめる。夢を捨て、かわりに家族の夕食の残り物を食べあさる太った母親の姿は、独り立ちしようとしている若い女性にとって恐ろしい光景だ。

 このビデオ日記作品の監督であり、主人公でもある私は、自分もまた同じような人生を送る可能性を否定できない。母親のようになるのが恐くて、私は22歳の時に家を出た。そして見知らぬ土地で、拒食症になった。自分にとってもまったく思いがけないことだった。
 
 6年間、私は自分の日常をビデオカメラで執拗に記録した。このナルシスト的な行為が、撮る側と撮られる側を擬似的に同一化し、カメラも“他者”化された視線と自分の体を和解させる道具となる。最後に自分自身を、そして母親の惨めな人生を受け入れることで私はやっと大人になった。

◆ 作品紹介 ◆

 母親から逃げるようにアメリカへ渡った22歳のジーナが、過食症とコンプレックスに悩みながら引きこもる自分の姿をビデオカメラに収めた。異国の地で少女時代の夢や記憶が甦る。母親の結婚衣裳を身につけ、過食症で膨らんだ腹に妊婦のイメージを重ねる。

  キム・ジナ  73年ソウル生まれ。ソウル大学美術学部卒業。カリフォルニア芸術学院美術学修士。作品はロカルノなど国際映画祭で上映。