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2004/09/10

<韓国文化>ロシアに学ぶ人物描写

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    俳優の金泰勲さん㊧と演出家の車太虎さん

 東京で開催中の「チェーホフ東京国際フェスティバル」に、2000年に旗揚げした韓国の地球演劇研究所が参加、『ワーニャ叔父さん』を披露する。同劇団の創団メンバーで演出家の車太虎さんと、俳優の金泰勲さんに話を聞いた。

――韓国からロシアに演劇を勉強に行く人は多いのですか。

 金 ニューヨーク、ロンドン、パリにも行くが、モスクワへの留学生が一番多い。以前は、小山内薫が初めて日本に紹介したロシアの演劇論を勉強したり、スタニスラフスキーも本を通じて知り得る程度で、本場ロシアで勉強したいと思っていた人たちが、社会主義が崩壊した91年あたりから、大挙して留学し始めた。現在モスクワの演劇大学に留学している学生の数は100人位いる。

――ロシア演劇を勉強したいと思った理由は。

 金 韓国独自の演技術が確立されていないと感じていた時、スタニスラフスキーを知り、彼の演技術を本場で学んで採り入れれば、韓国の現代演技術の確立に役立つだろうと考えた。 

――『ワーニャ伯父さん』が韓国で受け入れられた理由は。

 車 作品の持つテーマ、例えばこの時代のインテリゲンチャの生き方を表現することも重要だが、そのために退屈な芝居と思われては元も子もないので、財産問題や、エレーナを中心にした三角関係の揉め事など、身近でコメディ的な要素を前面に出して、まず楽しんでもらうという作り方をした。見た後で、その裏に潜むテーマに気づいてもらえばいい。  

 金 初演の2000年頃から、韓国でも日本と同様、会社や組織に尽くしてきた40-50代の働き盛りがリストラされ、自分の存在を否定されてしまうという問題が起き始めた。この状況が、47歳まで懸命に農場を耕し、送金して頑張ってきたのに、ある日突然、農場を売るからもういらないと言われたワーニャと重り、身近な話として受け止められたようだ。 

――今回、日本向けに一部演出を手直ししたそうですが。

 車 日本公演では、言葉が通じなくても耳で楽しめるように、台詞をリズミカルに喋るようにした。また、舞台デザインを少し変え、視覚的な要素をもっと盛り込もうと考えている。

――地球演劇研究所について教えてください。

 車 地球演劇研究所という名はシェイクスピアのグローブ座から取った。団員は現在20人。目指すものは〝生きている俳優芸術〟だ。 

――チェーホフという作家の魅力は。

 車 チェーホフの魅力は、やはり生き生きとした人物描写と、100年前の作品が今の時代にも通じるという普遍性だ。

金 シェイクスピアはどちらかと言うと、外に向かってエネルギーを発散するタイプだが、チェーホフは内面に目を向けている。表面上は静かでも、その奥に強い力を秘めているのが魅力。
 
――韓国の演劇教育システムはどうなっていますか。

 金 70年代までは、各劇団が受け継がれてきた独自の方法論で俳優を教え育ててきたが、80年代後半からは大学の演劇科で俳優を育てるシステムが確立された。韓国には、現在45の大学に演劇科がある。 

車 大学時代に黒沢明監督の「乱」を見た時、群衆シーンや俳優の演技など、日本の方がやはりレベルは上だと感じたが、教育システムが確立された今は韓国の方が上ではないかと思う。

金 演劇科がある45の大学が集まって、年に1度ヤングフェスティバルという催しをやっている。今年は初めて、日本からも日大の学生が参加したが、韓国の演劇科の数やレベルに驚いていた。

――日本の〝韓流〟について感想は。

車 国境を越えて情報が飛び交うネット社会では、自然な流れだと思う。法案整備なども進んでおり、お互いの交流のためには大変いいことだと思う。

金 韓流はドラマや映画など大衆文化が中心で、かなり表面的だと思う。私たちが芝居を日本に持ってくることで、もっと深い人と人との交流、文化と文化の交流のきっかけになればと願っている。欧州が1つの共同体になったように、両国がアジアの共同体の中心として、協力し合う形に発展していくのではないか。

  キム・テフン  1966年ソウル生まれ。東国大学校芸術大学演劇学科卒業。演出家・俳優。現在劇団地球演劇研究所所長、世宗大学校映画芸術学科演技専攻主任教授。

  チャ・テホ  1963年ソウル生まれ。東国大学芸術大学演劇学科卒業。演出家。現在劇団地球演劇研究所代表、釜山芸術大学演劇科教授。演劇演出家協会幹事。

『ワーニャ叔父さん』は22日午後6時30分、23日午後1時30分の2回、東京・天王洲のアートスフィアで上演。S席5000円、A席4000円、B席2500円。TEL03・5460・9999