◆ 「在日」 姜 尚中 著 ◆
在日2世の国際政治学者、姜尚中さんの初の自伝である。姜さんは韓国戦争が勃発した1950年、在日2世として熊本県熊本市の韓国・朝鮮人集落で生まれた。当時の多くの在日と同じく、両親は廃品回収業で生計を立て、子どもたちを育てた。父母はもちろん、親類も日本人とは違う韓国や在日の匂いをぷんぷんさせた人たちだった。特に日本で失意のまま亡くなった叔父に、在日の悲哀を見出す。
その後、早稲田大学に進むため上京した姜さんが見たのは、豊かさを享受する日本社会と、その明るさの裏にある在日の姿だった。
「在日」はなぜ惨めな状態に置かれているのか、なぜ朝鮮半島は分断されたのか、大学で同じ在日の友人と語り合う中、ついに「永野鉄男」の通名を捨て、「姜尚中」を名乗ることにした。この「在日宣言」から姜さんの第2の人生が始まる。
大学院に進んでマックス・ウェーバーを研究した姜さんは、ドイツ留学を経て日本に戻本格的に研究者への道を歩み始める。そして国際政治、東北アジアの平和について、テレビ等で積極的な発言を行っていくようになる。
姜さんの発言の根底には、なぜ「在日」として生まれたのか、「在日」とは何者なのか、「在日を生きる」とは何なのかの問いかけが常にある。そして、在日と日本、南と北、在日と南北など様々な分裂が和解に進むことこそが、重要な要素であると確信、「東北アジアの平和」を作り出すために行動しようと訴える。
”日本社会の見えない人々”であった在日が、どういう半世紀を生き抜いてきたのか、本書を通して知ることができる。(講談社、四六判、234㌻、1500円+税)
◆ 「『電子政府』実現へのシナリオ」 廉 宗淳 著
韓国は97年の通貨危機後、総力を挙げてIT国家建設に取り組み、世界トップレベルのIT先進国に躍進した。世界一のブロードバンド普及率を誇り、ネットによる商取引は当たり前、ゲーム、教育、医療、金融・証券まで、幅広く国民の間にITが浸透している。携帯電話を使ったバス、地下鉄などの料金支払いシステムが実用化され、行政手続きがネットでできる電子政府まで登場、IT化では日本を大きく引き離している。
本書は、こういった驚異的な発展を遂げている韓国のIT社会を紹介するとともに、韓国が電子政府の実現にどのように取り組んできたのか、ソウル市などの例を挙げ、具体的に解説している。住民票や戸籍抄本の請求はもちろん、工事の発注や物資の購買における公共入札、建築許可などの申請といった面倒な手続きもすべて電子処理されており、韓国のIT社会の進化は想像を絶する。
著者は、日本でITビジネスに携わり、現在、佐賀市の電子自治体構築のコンサルティングを務めている。その体験を通じて、日本の電子政府構想が立ち後れている理由について、「日本は供給者優先主義であり、消費者中心の社会ではない。これはサービスを提供する側が取引の主導権を握っていることを意味する」と指摘し、役所中心から住民中心へ意識の転換が必要だと強調する。
本書には、電子政府実現への貴重なヒントとアドバイスが具体的な実例とともに紹介されており、日本の行政に携わる人には「電子政府のバイブル」になるだろう。(時事通信社、四六判、208㌻、1600円)
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