第5回全州国際映画祭がこのほど開催された。インディペンデント系の映画を上映する映画祭として、地位を確立している。同映画祭に参加した明治学院大学文学部助教授の門間貴志さんに、報告してもらった
今年で五回目を迎える全州国際映画祭に参加した。96年に始まった釜山国際映画祭以後、韓国では新しい映画祭が生まれては消えていった。そんな中で全州国際映画祭は高い志を持ち継続している映画祭のひとつだ。
多くの映画祭が共存していくためには、他の映画祭との差異化を図ることが不可欠である。釜山映画祭が映画祭の王道を行くタイプであるとすれば、全州には「インディペンデント映画(独立映
画)」の擁護という性格が強いと言えよう。よって、ここで上映されるのは、大手の映画会社の手によらない作品が中心となり、その多くは、野心的で実験的、あるいは政治的な運動の作品で占められているように見える。
もっとも「インディペンデント」の定義は非常に曖昧である。アメリカでは非ハリウッド映画という意味合いが強く、日本では大手五社への対抗勢力として生まれた。韓国では、「インディペンデント」はどのように定義されうるのだろうか。私の印象では「アートフィルム」「芸術的な雰囲気を持った映画」といったニュアンスでとらえられているように感じられた。
今年の全州で注目を浴びたプログラムは、日本のATG映画の回顧、そしてキューバ映画特集である。
ATG(アート・シアター・ギルド)は、62年より、大手が配給しない外国の名作映画を紹介する団体で、全国に10の加盟館を持っていた。やがて60年代の後半よりATGは映画の製作にも参与し、大手では作れないような実験精神に富む作品を送り出した。
今回は大島渚の『忍者武芸帳』と『ユンボギの日記』、松本俊夫の『薔薇の葬列』、吉田喜重の『エロス+虐殺』、黒木和雄の『竜馬暗殺』など計11本が上映された。反応はおおむね良好であった。
ATGの常設館の支配人でプロデューサーの葛井欣士郎氏が、上映後の質疑応答に立ち会ったが、会場からはこの未知なるATG映画に対する質問が発せられた。左翼活動家の爆弾テロを描いた『天使の恍惚』の上映後に、軍国主義について映画なのか、といった思いがけない質問も出たが、若松監督は60~70年代の日本の政治状況を踏まえ丁寧に答えていた。
60年代の韓国で撮影された大島渚監督の『ユンボギの日記』の上映では、じっと見入る観客の姿も印象的だった。客席から、その後のユンボギの消息についての質問があったが、この問いに私が答えるという一幕もあった。韓国の研究者の関心も高かったようだ。
日本映画開放以後の韓国では、黒澤、小津といったクラシックと北野武、岩井俊二、宮崎駿などの新作のみが知られるという、極端にバランスを欠いた状態が長く続いている。(もっとも韓国で黒澤と言えば明ではなく清なのだそうだ)。60年代のプログラムピクチャーや、今回のATG作品などは、こうした映画祭が紹介の役目を果たしていくのだろう。
さらなる驚きは、キューバ映画特集である。ご存知のように韓国とキューバには国交がない。キューバが外交関係を持っているのは北朝鮮である(筆者は平壌の映画祭でキューバの映画人と言葉を交わしたことがある)。国際的に高い評価を受けているキューバ映画がこれまで韓国に紹介されてこなかったのは、政治的な理由からだとしても確かに残念なことである。
上映を実現させた映画祭関係者の苦心やキューバ側の英断には本当に敬服する。ホーチミン大統領の感動的な記録映画『79歳の春』が韓国で見られるとは思わなかった。