3月中旬、韓国で日本音楽が全面解禁後2度目の現地取材を行なう機会を得たので、刻々と変化する韓国音楽産業の最新動向を、日本国内の動きと共にリポートする。
昨年12月末の訪韓より3カ月を経て、筆者は真先に明洞の音楽・映像ソフト専門店に足を運んでみたが、予想していたよりも解禁の影響は少なく、CDのディスプレーも中華系ポップスと同様、約30種類程度のアルバムが並んでいるのみだった。唯一入口付近で安室奈美恵の大型ポスターが人目を引いているのが、印象的であった。
これまでも、アコースティックやジャズを筆頭に多くの日本人ミュージシャンが韓国上陸を果たし、着々とそのシェアを伸ばして来ただけに、劇的な変化は起きてはいない。
実際日本型の不況に見舞われ始めた現地の経済事情を垣間見れば、日本人ミュージシャンのソフトを発売する地元レコード会社各社が慎重な姿勢に徹し始めたのも言わずもがなであろう。
しかし、昨年の大晦日にTUBEなどの公演を設定し、華やかにカウント・ダウンを彩ったソニー・ミュージックエンタテイメントやエーベックス、ワーナーを筆頭に日本語ソフトは一定の売り上げを示している。
『大きな古時計』を昨年日本で大ヒットさせた平井堅や宇多田ヒカル(EMI)など、すでに海外での知名度の高いアーチストが牽引車となり、将来有望な市場へ浮上しつつあるのは、まぎれもない事実だろう。
しかしながら演歌・ムード歌謡系においては現在まで日本人歌手の作品発売は皆無で、日本で活躍する金蓮子やチェウニのアルバムさえリリースされる気配は全く見受けられないのは残念だ。
ここで日本の状況にもスポットを当ててみたい。
韓国ばかりか日本でもCDの売り上げは減少の一途をたどり、ダウン・ロードによる音源複製や正規ライセンスによる外国製日本盤CDへの輸入制限などが業界内でも憂慮されている。
しかし、良質な音楽を供給する|と言うポリシーは不況下でも充分貫かれており、今年に入ってからもすでに何組かの韓国人アーチストが日本デビューを果たしている。
特に、2002年12月に韓国で発売され、数カ月で50万枚の大ヒットを放った男性歌手、イム・ジェウクのユニットPositionと昨年かの地で社会現象を巻き起こし、奇跡のシンガーと絶賛されるクラシック畑のイム・ヒョンジュは注目に値しよう。
キングレコードが去る1月に発売したPositionの日本デビュー盤『ILoveYou』(KICS|1052)は、オリジナル曲2曲と尾崎豊の代表曲として知られる同名タイトル曲を筆頭に日本のヒットポップスの韓国語版10曲を収録。ワン・ソフト・マルチエースの先陣を切る良質な作品の誕生とあいなった。
また、イム・ヒョンジュの日本デビュー盤『サリー・ガーデン』(ソニーレコード/SICP509)も、日韓音楽交流新時代の幕開けにふさわしく、オペラやミュージカルの名曲に混じって松任谷由実の名曲『春よ、来い』を日本語でカバーしている。
どこか中性的でミステリアスなイムの個性と名門ジュリアードで学んだ天性の歌唱力が今後日本でも評判を呼びそうだ。
最後に、インディーズ系音楽からも面白い話題を紹介しておこう。
80年代末から今日まで、韓国インディーズのカリスマとして著名なロック・フォークバンド、新村ブルースと在日のインディーズ・ヒーロー、朴保バンドのコラボレーションによるジョイント・アルバムがポニー・キャニオン・コリアンより韓国で発売された。
70~80年代のノスタルジックなサウンドを思い起こさせるファンキーかつデカダンなロックスピリットに、ファンならずとも胸が熱くなる仕上がりぶりで、ぜひ日本でも発売を期待したい。