1983年、東京での連続リサイタルで楽壇デビューした在日2世のオペラ歌手、田月仙さんが、デビュー20周年記念リサイタル「永遠の愛を」を28日に開催する。日本、韓国、北朝鮮で歌った経験を持つ田さんに、20年を振り返ってもらった。
--最初は朝鮮舞踊をやっていたそうですね。
高校まで朝鮮学校に通い、朝鮮舞踊や歌を習っていました。志望していた音楽大学に受験願書を出すと、朝鮮高校卒業では受験資格はないといわれ、絶望的な気持ちになったのですが、桐朋学園は受験できるということで、必死に勉強し合格しました。
--デビュー当初は韓国名のオペラ歌手はほとんどいなかったそうですね。
そうですね、ある意味で孤独な状態でした。そして、この世界で生き抜くには個性が必要と実感し、歌を土台にしつつ子どものときから習ってきた舞踊や演技を含めて勝負しようと決意しました。83年に最初のリサイタルを開いたとき、歌劇の名曲だけでなくコリアの歌曲も歌いました。当時はコリア歌曲は日本でほとんど知られていなかったので、好評だったことをうれしく思っています。
--日本、韓国、北朝鮮で公演を行いましたね。3カ国で公演が実現したことをどう考えていますか。
在日コリアンとして3カ国で公演する機会に恵まれたことは、本当に幸せでした。特に94年のソウル定都600年記念オペラ「カルメン」でカルメン役に選ばれ、この時に初めて韓国に行ったのですが、父母が生まれた国でオペラの主役を演じるというのは感慨深いものでした。その後、2002年のサッカーワールドカップ(W杯)韓日共同開催のときに、記念オペラ「春香伝」の主人公、春香役を演じることが出来たのも忘れられない出来事でした。
--韓国の歌曲を紹介する作業にも、力を入れていますね。
在米コリアンが作った「南であれ、北であれ、いずこに住もうと皆同じ、愛する兄弟ではないか」と歌う「高麗山河わが愛」を知ったとき、南北がこんなに違う国になったのかと感じていた私にとって、「一つのコリア」の願いを込めて、この歌をぜひ紹介したいと思いました。
96年の米国公演でこの歌を歌い、韓国や日本のテレビでも紹介されましたが、統一への願いを込め、今後も歌い続けたいと思っています。
--28日の20周年記念リサイタルでは、「ふたりの海」という曲も歌うということですが。
新大久保駅で線路に落ちた人を助けようとして韓国人留学生と日本人カメラマンが犠牲になった事件がありましたが、その事件を追悼するために作られた曲です。
ある方が作ってくださった曲なんですが、事件の衝撃を思うと歌うのがつらくて、ずっと温めていました。しかし、日本人拉致事件をめぐって日本と北朝鮮との関係が悪化する中、事故で犠牲になった2人だけでなく、日本とコリアの不幸な歴史の中で犠牲になった数多くの人たちへの鎮魂にもなるのではないかと思い、歌うことを決めました。
--在日2世の歌手としての思いを最後に聞かせてください。
また98年に東京都の親善大使に選ばれたとき、日本語の「夜明けの歌」をソウルで歌おうと思いましたが、文化開放前で許可が下りませんでした。南北分断や厳しい韓日関係など、歌も政治の狭間で翻弄されてきました。だからこそ逆に、歌で狭間を埋める活動が出来るのではないかと考えて、歌手活動を続けてきました。今後もその思いを胸に歌い続けたいと思います。
◆20周年記念「永遠の愛を」◆
日 時:2月28日午後6時
場 所:紀尾井ホール
料 金:S席6,000円、A席5,000円ほか
TEL:03・5749・9911(イープラス)
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