交流って何だろう。
そんなことを考えさせられた友好交流学生オーケストラ演奏会があった。
韓国芸術総合学校は音楽院、演劇院、舞踊院、映像院、伝統芸術院、美術院からなる国立の学校で1993年に創設された。
音楽院は韓国の状況に合わせたカリキュラムのもと、世界に通じる音楽家を育てようと、アメリカのジュリアード、カーティス音楽院、パリのコンセルバトワールと並ぶ学校をめざしている。
現在、総合学校音楽院の副院長をしている閔庚燦さんは東京芸術大学(芸大)に留学の経験がある。その閔さんの橋渡しで音楽院と芸大は2001年に交流協定を結んだ。
お互いに刺激し合おうという目的で、これまで金管楽器の教員、学生の演奏会、ワークショップ、2年続けての芸大作曲科主催の現代音楽演奏会がおこなわれた。4年目を迎えた今年は、指揮科の教授と学生ソリストが互いに学校を訪問し、学生オーケストラと共演
するプログラムをおこなった。
「日本人のヨーロッパ音楽志向はまだまだ強く、隣の国でベートーベンやマーラー、チャイコフスキーを演奏していることすら知らない。五線譜は万国共通でしょ?作曲家の思いがこもった五線譜に思いを入れて演奏する。そこから連帯感が生まれるんじゃないかなあ」と語る芸大の佐藤功太郎さんは五月、ピアノ科の四年生と訪韓し、音楽院の学生オケとKBSホールで共演した。
音楽院の学生オケはパワー全開。とにかくエネルギッシュだったという佐藤さんはつけ加えた。「演奏が終わってからみんなで飲みに行ったんだけど、夜中の2時まで平気なんだ。それが楽しくってね」
先月28日には音楽院から指揮の鄭致溶さんとピアノ科2年生の金泰亨さんが来日し、芸大奏楽堂で芸大学生オケとチャイコフスキー「ピアノ協奏曲第一番」、マーラー「交響曲第一番巨人」を共演した。
鄭さんは「芸大の学生さんはみんな意欲があって、表情が明るい。そして態度の良さとアンサンブルの素晴らしさをソウルに戻ったら伝えたい。韓国、日本、中国の三カ国で学生オケをつくり、お互いに学びあって親しくなる。そのオーケストラでヨーロッパツアーができたら素晴らしい」と声を弾ませた。
こうした交流音楽会の主役は誰だろう。演奏した学生オケのほとんどのメンバーは芸大と音楽院との交流事業のことはもちろん、音楽院のことも鄭さんのことも全く知らず、た
だ授業の一環として練習に臨んだらしい。
「いつもの学生オケの授業という枠を越え、同じ山の頂点に向かって練習ができたことは良かった」と言うコンサートマスターの水村浩司さんも、通訳がいたら鄭さんやピアノの金さんと話ができただろうにと残念がった。
トランペット専攻の三年生、柴田恵梨子さんと原育海さんは初顔合わせの鄭さんとのリハーサルが終わったあと、こう話してくれた。「僕たちがやっている西洋音楽のホームグランドはもちろん西洋。そこにはそこの演奏スタイルがあるけど、東洋でしか捉えられない西洋音楽、演奏のしかたがあると思うんです。アジアの観点から西洋音楽を見るっていうのかな。それはアジアの中から日本を捉えることにつながりませんか?」。
そして「学校、学生間という枠からはみ出た人間同志の交流につながる音楽会ってできないんでしょうか」と話した原さんは仲間を誘って、ピアノの金泰亨さんと飲んだとか。
そこでの彼らの笑い顔こそが今回の大きな交流だったのかも知れない。
とだ・ゆきこ 国立音楽大学声楽科卒業。元二期会合唱団団員。84年度韓国政府招へい留学生として漢陽音楽大学で韓国歌曲を研究。「町の音楽好きネットワーク」ディレクター。著書に『わたしは歌の旅人 ノレナグネ』(梨の木舎) 。