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2005/09/23

<韓国文化>美術で戦争に"異議申し立て"

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    国家と世代を超えた対話を試みる展覧会。左は朴京勲の
    「断固たる現実 Made in U.S.A」2004年

 財団法人原爆の図丸木美術館(埼玉県東松山市)で、「韓日・日韓 五世代の対話」が開催中だ。韓日の作家による、平和を願う作品を集めた展示会だ。

 夫妻で画家・丸木位里・俊が共同制作『原爆の図』を、誰もが見ることができるようにと願って建てた丸木美術館。

 丸木夫妻は生涯をかけて、私たちの足元で起きた様々な戦争を見すえ描き続けた。ともすれば原爆の悲惨さばかりが強調され、見落とされてしまう加害者としての日本という側面にも目をそらさず、強制連行された朝鮮人被爆の図なども制作している。その美術館で今、「日韓・韓日 五世代の対話」展が開催されている。

 今年は日本が朝鮮を植民地化する先駆となった1905年の第2次日韓協約(乙巳条約)から100年、65年の日韓条約による国交正常化からは40年、さらに敗戦/解放60周年であり、両国にとっても節目の年といえる。だが最近の日韓関係は「韓流ブーム」とは裏腹に、過去の歴史に対する認識の違いが露呈し、悪化している観さえある。

 そうした中、「戦争への異議申し立て」を美術によって行いながら、国家間のみならず、世代間の間隙をも乗り越えて対話を試みようとする展覧会だ。

 日韓五世代にわたる作家たち、日本側では例えば、上條陽子はパレスチナ難民キャンプで教育の機会すら失った子供たちのために絵画教室を開きながら、その抑圧のありかを表現する。斎藤美奈子は米国滞在や韓国との往来を通じ、アジア人、日本人としての自分をつきつけられた経験から、祖父母の世代につらなる第2次世界大戦を手繰り寄せ表出する。

 井口大介は「9・11」以降の米国中心のグローバリズムに疑問を投げかけ、子供たちの代までこの「戦争」が及んでいく不安定な状況を、宙吊りにした玩具などで象徴化する。

 韓国は、80年代民主化運動に呼応して発生した「民衆美術」の作家たちが参加、朴京勲はイラク戦争によって「警察国家」のように君臨する米国への痛烈な批判を、ブッシュ大統領とアラブの少年の表情を対比させデジタル・プリントで鮮烈に表す。安星金は南北に分断された各々の国旗のデザインを取り入れ抽象化した「統一旗」を提示、統一への願いと分断の所在を問いただす。

 20~30代の若手グループ「クリム・コンジャン(絵工場)」は、労働運動と連係する壁画制作などで知られるが、今回は勲章で飾られた米国の軍服を掲げ、その名誉の下に無数の犠牲の血が流されていることを訴えるなど、韓国の作品は概ね「反米」意識や社会批判がストレートに表現されているのが印象的だ。

 展覧会場では日韓の文化的土壌を背景に、作家個人の体験から導き出された主張が響きあう。

 作家同士のトークで日本作家を選定した針生一郎館長は、「戦後の日本は歴史を喪失してしまった。”正史”ではない歴史を遡って記憶を掘り起こしていかないと、芸術はその捉え方さえわからなくなり、社会との関係を失ってしまう」と強調した。

 井口大介は「”最もラディカルな武器”といえる憲法9条を改正しようという動きには、はっきりとした抵抗を表現していきたい」としながら、「歴史教科書問題や首相の靖国神社参拝等について韓国の人々はどのように見ているのか?」と問うと、安星金は「昨今の日本の右傾化は、アジアの安定を脅かすものとして注視せざるをえない。また特に日本の若い人たちには、分断の要因が日本の植民統治に根ざしている点も思い起こしてほしい」と答えた。

 こうして両国の作家たちによる活発な対話は、芸術が互いの乖離を乗り越えようとする良き”通路”として働くことを再認識させてくれた。

 オープニングにあわせて行われた大串孝二のパフォーマンスは、戦争による犠牲者の魂を清め、痛みを放ちつつ、今を生きる私たちがまっさらに向き合い心を通わせるための通路=パイプのような役割をはたしていた。

 その行為、そして両国の表現を通じた対話こそが、被害と加害が交差するこの美術館を遺した丸木夫妻の真意を継ぐ今日的な作業となりえるだろう。(古川美佳・ふるかわみか/韓国美術・文化研究)


◇韓日・日韓 五世代の対話◇

日 時:開催中(10月28日まで)
場 所:丸木美術館
入館料:大人735円、中高生525円ほか
℡0493・22・3266。