韓国文化院主催の韓国伝統料理についての講演会「韓国伝統飲食の味と粋」が、このほど都内で行われ、約300人が参加した。尹淑子・韓国伝統飲食研究所所長の講演要旨を紹介する。
昔から韓国の先祖たちは旬の材料を使い、時と時節をあわせて体に有益な飲食物を作り、栄養を補充し隣人と互いに分け合い食しながら、お互いに助け合う共同体生活を育んできた。四季の影響を受け、歴史の移り変わりに従って自然に形成されてきた「韓国伝統飲食」は季節と地方の独特な彩りが調和された自然食といえる。
韓国の伝統飲食はご飯とおかずを主にして、配膳法に従いお膳たてをする。伝統的お膳たては一人善であった。目上の人のお膳たては品数が多く、序列が低くなるほど品数は少なく膳の大きさも小さかった。身分により庶民の飲食は3品・5品、両班(上流階級の総称)の飲食は7品・9品、宮中飲食の王の水刺床(膳)は12品というように区分されている。
ご飯・澄まし汁・キムチ・チゲ(鍋物)は品数にその数が含まれていない。そのため、今でも食堂で料理を注文するとキムチや澄まし汁は無料で提供される。
韓国では古くから‘薬食同源’つまり、「食べることが即ち薬になる」と言われて来た。これは無病長寿や健康な暮らしの為には飲食を上手に食することが一つの方法で、そうする中で病気を事前に予防し治療できるようになると言う意味から食生活の重要性を強調する言葉であると言える。
また、ある期間熟成させ発酵させて、より良い味と栄養を備えさせてから食す物がある。カンジャン(醤油)、テンジャン(味噌)、コチュジャン(唐辛子味噌)のようなチャン類と各種キムチ類、塩辛、酢、酒類など全て発酵食品であり、韓国固有の優秀な食品である。
特にキムチの場合、種類も多様で200余に及びその味も栄養も異なる。
韓国伝統飲食の種類はおよそ2千種をはるかに超える。これらの飲食類が全て味と香り・形・色彩面においても単に優れているだけに留まらず、薬性が豊富で人体に必須不可欠な栄養素を均等に備えているため、生命維持はもちろん丈夫な体力を維持し、併せて病も予防し治療の役割を兼ねる優秀な飲食であると評価されている。
伝統飲食の味は薬味から出るが、薬味を均等に染み込ませるためには手で和えるか揉み、手の先から出る‘気’を込めて美味しい味を出した。
“飯の上の餅”という諺がある。心が満ち足りるほど持っているのに更に与えられ、これ以上はもう望む事も無い状態を指す言葉である。韓国では気持ちにおいてご飯より餅をもっと美味しい飲食と捉えていた事が窺える。それほど餅は通常食べる飲食とは異なり別食として捉えられる。
韓国の色は青・赤・黄・白・黒の五方色を使う。この五方色が密かにそれとなく韓国の日常食とお祝い事の料理などで見ることが出来る。
青・赤・黄・白・黒の五方色の食材は身体における五臓(ごぞう)である肝臓・心臓・脾臓(ひぞう)・肺臓・腎臓に良い影響を与えていると言われ、韓国の飲食がどれだけ粋と味、健康を調和させて作られたのかを改めて感じさせてくれる。
目で色を見、口で味を感じる。刺激的な鮮やかさは無いが、しっとりとした色彩が食欲を引き立てる。韓国伝統飲食の粋は全て表に現さず、少しずつ見せるものである。
昔、宮中では端午の節句から中秋の名月まで白磁や陶器を使用し、中秋の名月から翌年の端午の節句までは銀の器を使用した。寒い冬に温かいご飯を食さなければならなかった韓国人にとって温かさを失わない器は重要な生活用具であった。
銀食器を使えなかった庶民は真鍮の器を使った。素焼で作られたおひつは夏の暑い日に三日間飯を入れたままにしても傷まなかったといわれる。
お膳かけも季節により異なり、茶碗も春秋は木の器、夏は陶器か白磁、冬は真鍮の器というように季節に合わせて使い分け飲食文化の粋と科学の調和がなされた。
それでは伝統飲食を食しながら育んできた韓国人の‘心意気’は何であろうか。
例えば、食事の途中であっても行商が来ると食事を勧め、祭りの日に料理をすると門の外まで匂いがするため、行きすがりの旅人まで呼び入れてもてなした。また、大人たちが食事を終え膳を下げる時にはあたりまえにご飯や、 美味しい肉を一切れ二切れ残し、下の者たちが食べられるようにした。晩秋から初冬まで柿の木の枝の先にぶら下がる二つ、三つの赤黒い所謂‘カササギの餌’と言われる鳥たちにまで恵む布施(ふせ)の精神にその‘心意気’を窺い見ることが出来る。
また、田畑で野良仕事をする者が間食時に道を行き来すると呼び集め、ご飯一匙、酒一杯をもてなし分けて食べるように人情が深かった。
このような韓国人の心性は、先ず祖先を考え、両親を考え、大人を考え、必ず隣人と分け合う心。即ち共食・共生・共存の発現であり、韓国人が持つ心意気の現われと言える。
今、世界の人々が韓国の伝統料理に込められた韓国の祖先たちの食生活の知恵と息遣いを受け継ぎ韓国伝統飲食の粋と味を活かし、その味を世界化し、世界の人々が韓国の味の真髄を感じられるようになる事を願わずにはいられない。