井戸茶碗(高麗茶碗)の復元に取り組む陶芸家、張今貞さんと、韓国画家、チョ・ウォンソプさんの作品を紹介する「張今貞セミゴル井戸茶碗とチョ・ウォンソプ韓国画展」が13日、東京・南麻布の韓国文化院で始まった。名古屋、大阪に続いての開催で、東京展の後は京都、福岡でも開かれる。
◇ 辛奉承・韓国芸術院会員の話◇
日本が世界に誇る「井戸茶碗」は、呼吸をする陶磁器と言われコレクターが最も手に入れたい名品として名高い。
「井戸茶碗」は、今から400年前秀吉の朝鮮出兵の時に山口県・萩に連れてこられた朝鮮人捕虜の李芍光、李敬兄弟が焼いたという「朝鮮のマックサバル(茶碗・どんぶり)」がその始まりだ。
「井戸茶碗」という名称も興味深い。慶尚南道・河東地域の瀬戸物の町として有名なセミゴルだが、この「セミゴル」を日本語で表すと井戸となり「井戸茶碗」は韓国語の「セミゴルマックサバル」となる。
約400年前、朝鮮人陶工によって初めて作られた朝鮮茶碗(初期の井戸茶碗)が、現在42個残っているが、その中の一つが日本で国宝に指定され、京都の大徳寺に保管されている。
張今貞氏は約2年間、萩地方で生活しながら「井戸茶碗」の生成過程と効用に研究を重ね、私は実際にその現場を見てきた。
張氏が30年間絶えず追い求めた「セミゴル朝鮮マックサバル」の美しさは、余計なものがなく素朴で、外見でなく中から成熟する。張氏のこれまでの苦労と忍耐の歳月に熱い拍手を送りたい。
張今貞さんは慶尚南道河東郡辰橋面白蓮里セミゴルで、井戸茶碗の再現に30余年取り組んでいる女性陶芸家だ。同地は昔から陶芸の町として有名で、400年の前の無名の朝鮮陶工のふるさとといわれる。
1970年、韓日の学者が同地で共同調査を行行い、陶器や青磁、朝鮮朝前期の粉青沙器の破片、そして窯跡の発掘により当地域一帯が16世紀当時、晋州牧管轄の官窯であったことが考証された。そして74年、セミゴル一帯が慶尚南道道文化財24号に指定されたのである。
張今張さんは地方文化財に指定された当地で、30年間伝統的な方法である天然釉薬を用いて朝鮮マンテギ(縄袋)窯を再現し、薪火を使って陶器を焼いてきた。井戸茶碗を再現するため80年、400年前の朝鮮陶工の子孫が営んでいる山口県萩市の陶窯での修行も経験している。
張さんは韓国内のみならず、日本、米国でも展示会を開催するなど、国内外で高い評価を得ている。現在日本で放映中の「宮廷女官チャングムの誓い」でも張さんの作品が数多く使われている。今回の作品展では約60点を展示している。
韓国画家のチョ・ウォンソプさんは、韓国の美しい山河を墨による繊細な筆遣いで描き続けてきた。今回は約30点を展示。来日はしていない。東京展のオープニングには、羅鍾一・駐日韓国大使館特命全権大使、倉田寛之・自民党参議院議員、松あきら・公明党参議院議員など約150人が出席。
◇ 張今貞さんの話◇
「自分の故郷が陶芸の先祖の地であることを知ったのが、当時の作品を再現しようと思ったきっかけだ。ただ陶磁器を再現するのではなく、400年前の制作者の生き様、気持ちなどを再現しようと考えて取り組んできた。当時の人々はその器に畑で取った豆を入れたり、酒を飲んだり、食事に使ったりしていた。そう先人に思いを馳せながら作ると自然に涙が出てきたこともある。
今回の展示会を通して韓国人の心情、素朴さを感じてほしいし、在日の人たちには祖国を感じる一助になってくれればと思う」
◇ 高麗茶碗とは◇
高麗時代を代表する青磁から、朝鮮朝の白磁へと陶磁器の主流が移り変わっていく時期に、粉青沙器(青磁、白磁のような磁気を除く陶器の総称)が登場した。「高麗茶碗」とは、この時期の焼き物が日本に渡来して名付けられたモノである。
安土桃山時代の有名な茶人である千利休が、高麗茶碗の素朴で無作為な美を評価し、日本の茶の湯の侘び・寂の世界で茶道具として見立てて使ったことで評価が高まった。
同展は18日まで東京・南麻布の韓国文化院で、4月19日から24日まで京都の野村美術館で、6月20日から26日まで福岡のエルガーラホールで開催される。℡03・5476・4971(韓国文化院)。