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2005/01/07

<韓国文化>個性的で多様な作品輩出

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    チェ・ビョンジュ  韓国ソウル生まれ。梨花女子大学校舞踊学科卒業、同大学院舞踊学修士課程修了。お茶の水女子大学大学院人文科学研究科舞踊教育学修士課程修了。現在都立大学非常勤講師。

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    キム・キョンエ  淑明女子大学校国語国文科。延世大学校言論広報大学院卒業。現在舞踊評論家、月刊「ダンスフォーラム」誌主宰。

 「韓国ダンスの現在-ダンスフォーラム」がこのほど、東京のこどもの城で行われ、韓国現代舞踊40年の歴史と現状について報告がなされた。崔柄珠・都立大学非常勤講師(写真・左)と舞踊評論家の金敬愛さん(写真・右)の報告要旨を紹介する。

崔柄珠・都立大学非常勤講師

 韓国現代舞踊は、1926年の石井漠の京城(現ソウル)公演に影響を受けた崔承喜や趙澤元らが、創作舞踊に挑戦したのに始まる。1930年代から50年代にかけてのことだ。その後、60年代に入ると陸完順によって現代舞踊が韓国に広まっていった。

 陸完順は韓国舞踊の母といわれている人物で、米国滞在中、モダンダンスの草分け的存在であるグラハムの舞踊テクニック、祖国愛に影響を受け、韓国に戻って現代舞踊普及に努力した。

 陸さんの働きにより、63年に梨花女子大学に舞踊学科が開設され、他大学に広まっていった。60~70年代は多くの人材が育成された年代である。

 80年代に入ると西欧モダンダンスに韓国の伝統的要素を融合させた「韓国化」が起きた。小劇場運動も活性化していった。李丁姫のように光州事件(80年に軍事政権に反対した民衆抗争。多くの犠牲者を出した)に衝撃を受け、恨をはらすサルプリ(恨を解く)を踊っている人もいる。

 90年代後半に入ると、「脱韓国化」、コンテンポラリーダンスとも言える新傾向が出始めた。その代表格が洪信子だ。伝統や儒教の影響からの解放を求めて米国に渡り、その後、根元的な生と死について考え、インドに渡り精神的自由、無心の境地に到達。独自の舞踊の創造を目指している。

 最近は個人的テーマを追求し、自己の存在や自我のアイデンティティーを問う舞踊家が増えてきた。例えば男性舞踊家の朴豪淋は演劇から舞踊に転向した人で、ダンスシアターを設立し、心理描写に力を入れたドラマ的展開の舞踊を発表している。この朴豪淋とダンスシアターオン代表の洪スンヨプは、現在最も注目されている男性舞踊家だ。

 また韓国現代舞踊が発展する中、各種舞踊公演やフェスティバルが急増した。3大フェスティバルといわれるのが、新聞社の記者であり、国際舞踊協会韓国本部会長を務める李鐘浩によって開かれている「SIDance(ソウル・インターナショナル・ダンス)」、陸完順が80年に設立した韓国現代舞踊協会の主催で開かれている「インターナショナル・モダンダンス・フェスティバル」、韓国文化芸術振興院の舞踊支援事業として始められた「大韓民国舞踊祭」だ。

 他にも「安東現代舞踊フェスティバル」「釜山国際夏舞踊祝祭」など数多くのフェスティバルが、地方でも開催されるようになった。

 陸完順は2月24日から3月5日にかけて、ソウルで「コリアン・モダンダンス・ミュージアム」を開催する。韓国現代舞踊の歴史を振り返るとともに、今後の方向あるいは進路を模索するもので、最近の優秀作品の上演のほか、写真やポスターの展示、学術シンポジウムなどが計画されている。10月には東京の青山円形劇場で、そのダイジェスト版となる「韓国ダンス・アーカイブ40年」が開かれる予定だ。韓国現代舞踊の過去・現在・未来を理解する上で貴重な催しとなるだろう。


金敬愛(舞踊評論家)

 韓国は朴正熙政権時代に大学数を増やしたが、それに比例して舞踊学科も増えた。韓国では舞踊が底辺な存在として扱われてきた歴史があり、それをアカデミックな存在にするために舞踊学科が作られた背景がある。

 現在、米国に次いで舞踊学科の多い国で、50を超える大学にあり、最近は飽和状態だ。少子化で学生数の減少も続いている。さらに舞踊学科が数多く存在することのプラスマイナスがある。芸術は本来、非教育的なものだからだ。

 最近は安愛順などの独立舞踊家が出てきた。彼らは韓国社会が激しく変化する中、大学で学ぶ形式的踊りを破壊する役割を担いつつある。「自分探し、苦悩する若者たち、競争の激しい社会」などをそのまま表現し、個性的で多様な作品を作り出している。男性の踊り手も増え、ダイナミックな踊りを表現するようになった。自然に世代交代が進んでいる。

 韓国の舞踊家は研究熱心で、大きな可能性を秘めていると思うが、一人のスポーツ選手を育てるように、育成に力を注がないといけない。政府の支援はまだまだ足りないし、企業スポンサーも不足している。それと振付家やプロデューサーの養成も大きな課題だ。