両手の指が2本ずつしかない障害を持ちながら、ピアニストとして活躍する李喜芽さんのコンサートが6月、日本各地で行われる。喜芽さんとお母さんの禹甲仙(ウ・カプソン)さんのインタビューを紹介する。
◆「努力すればできる」 李喜芽(イ・ヒア)さん◆
――ピアノを始めたきっかけは。
6歳の頃から始めました。ショパンの「ファンタジー」を弾けるようになるために努力してきました。この曲は普通の人でも弾くのが難しい曲です。私自身が頑張って弾けるようになりたいと思い練習を続けました。
テレビに出たとき、その放送を見て多くの人から「またピアノを弾いてほしい」と言う反響があり、ファンレターも何百通も届きました。それを見て毎日の生活に元気が出て、頑張れると思ったのです。
――信念とか信条というのはありますか?
指もなく、足もないため、私に勉強を教える先生方は、数学も音楽も苦手だと思っていたようです。でも私はIQが弱い代わりに、EQが発達していたのか、ピアノが非常に上手になりました。つまり苦手な事が多少あっても「自分の好きな事こそ頑張ればできる」と言う強い信念を持って毎日を生活しています。
――将来の夢は何ですか?
日本で有名な乙武洋匡さんは、韓国でも非常に有名人です。新聞や各種メディアで取り上げられています。自分も身体が不自由ですが、乙武さんのように様々な方法で、人々に「希望」を与える事をしていきたいと思います。
音楽の聖人と言えばベートーベンです。ベートーベンも耳が不自由になる不幸な経験をしていますが、そんな境遇のなかでも最後まで諦めずに、色々な事に取り組んだため、素晴らしい音楽家として認められています。
自分も音楽を通じて人々に「希望」を与えていきたい。
その希望と言うのは「夢」を持つ事。自分には出来ない事もないし、怖い事も何もないと言う事を感じさせ、「夢をしっかり持つように」と言う事を、多くの人々に伝える活動を続けたいと思います。
◆「甘やかすことなく」 母・禹甲仙さん◆
――喜芽さんが生まれたときどう感じましたか?
喜芽が生まれる前から身体が不自由と言う事は分かっていました。しかし、カトリック信者として、「子供を産もう」と決意しました。
人間は能力を持って生まれてくるのではなく、役割を持って生まれると今でも思っています。そう言う意味で厳しく、様々な事を教え、話し、「役割」を自覚するように教育をしてきました。甘やかすことは、子供の将来の妨げになると思います。
――ピアノの練習はとても厳しかったとか。
喜芽は指の軟骨がないため、子供の頃は指が曲がる感覚がありませんでした。指を曲げるには練習しないと駄目だと感じ、ピアノの特訓を続けました。また喜芽自身も舞台でピアノを弾くためには、普通の人の倍、練習をしないと出来ないと感じていました。そこで、厳しく特訓しました。
例えばショパンのファンタジーを弾かせることに対し、世間では「弾けないこと無理してやる必要がない」と言いましたが、私は喜芽と一緒にがんばりました。
――最初ピアノを始めた時には、このように上手になる事は想像できましたか?
普通の人より上手くピアノを弾ければと考えた事は、一度もありません。喜芽はIQも低いし、足も指もありません。しかし、喜芽自身が持っている能力を発揮して出来るように、支えてきました。
喜芽は舞台が好きで、音楽も好きで、人も大好きなのです。また、喜芽の胸の中には「愛」が溢れています。それを維持するためには私自身も「忍耐力」がなければ維持ができません。そのような「忍耐力」を私が神様から授かって、辛い時を乗り越えました。
――お父さんの死や、障害への無理解など、様々な困難があったそうですが。
北朝鮮から武装軍人(スパイ)が入ってきた事があります。ソウル近郊で銃撃戦がありました。その時、韓国軍人として銃撃戦に参戦したのがヒアの父親でした。その際、夫は銃弾に倒れ、半身不随(胸の下は麻痺)になり、看護士として看病したのが私でした。それを機会に結婚し、喜芽を生むことになります。
夫は国家有効士(国の功績を認められた者)として補償金が与えられましたが、亡くなった後は援助がなくなりました。そこから生活が困難になりました。今では喜芽がピアノを弾くことで公演収入も入り、以前よりは楽な生活になってきています。
今後も喜芽が自分の「目標」や「夢」に向かっていける環境を作っていくことが、私が一番望んでいる事です。
◇イ・ヒア ピアノリサイタル◇
日時:6月11日午後2時=ハーモニーホール座間
6月14日午後7時=府中の森芸術劇場
6月15日午後7時=府中の森芸術劇場
6月16日午後7時=東京文化会館
6月20日午後7時=神奈川県立音楽堂
6月21日午後6時30分=大阪メルパルクホール
料金:3,000円(全席指定、税込み)。
℡:0570・02・9990(チケットぴあ)。
◇CD発売中◇
李喜芽さんのCD「ヒア」(輸入盤)を日本でも発売。2500円。希望者はK・A・Cまで。℡03・3376・3218。