音楽ジャーナリスト 川上 英雄
2月初、ソウルを訪れる機会を得たので、昨年末から今春にかけての韓日音楽事情の最新リポートを報告する。
急激なウォン高の影響もあって韓日ショー・ビジネス界の収支バランスも変化しつつある。昨年秋までは日本に比べ格安のギャラやロイヤリティーで興業活動を強いられて来た日本人アーティストや関係者にも、韓国が稼げるマーケットとして認識され始めたことは、対等な音楽交流に向かってプラス志向に働くに違いない。
明洞(ミョンドン)や光化門(カンファムン)近くの教保ビル地下の音楽・映像ソフト店を垣間見れば一目瞭然だが、ジャズやクラシックなどのジャンルで日本製CDアルバムが、割高な正規輸入盤ながら人気を博しており、現地仕様版のJポップ・ライセンス盤ともども着実にマーケット・シェアは拡大している。
昨年12月に、ソウルの新都心・江南(カンナム)で人気の高いライヴ・スポット『ワンス・イン・ナ・ブルー・ムーン』で日本人タンゴ歌手・冴木杏奈(さえきあんな)の来韓初ディナー・ショーが開催された。
「ミス・さっぽろ」にも輝いた美貌のシンガーとして人気が高い彼女は、パリ、NY、ハワイ、ロンドン、ロサンゼルスなどでも公演し好評を博しているが、特に06年12月に日本で発売された韓国曲『光化門恋歌(カンファムンヨンカ)』を含むニュー・アルバム『希(NEGAU)』(発売元コムストック・販売元RENTRAKエンタテインメント)を引っ下げてのステージは、現地でも注目を集めた。
全曲タンゴ・アレンジによる美しくもノスタルジックな歌声は、まだまだ本格的タンゴへの認知度が低い韓国の音楽ファンや関係者に、大きなインパクトを与えたと言えよう。
また、日本人男性アーティストではアコースティック系の溝口肇(みぞぐちはじめ)が1月末に韓国進出を果たし、デビューCD『Yours』が人気を呼んでいる。日本ではテレビ朝日の長寿番組『世界の車窓から』のテーマ曲でおなじみの、チェロ奏者として著名な存在だが、現地でも日本おたくの間で有名な日本映画『東京タワー』など数多くの劇中音楽を手掛けた作曲家として認知度が急上昇。この春ブレイクしそうな勢いだ。
更に、ムード歌謡畑の桂銀淑(ケ・ウンスク)が東芝EMI時代の日本語によるオリジナル・ヒット曲などを収録した2枚組アルバムを母国で発売した。
かつて、日本楽曲発売が制限されていた時代には多くの艶歌歌手が海峡を渡って活動するものと予想されていた。しかし、急激な時代の変化は日本のみならず、韓国をも巻き込み、艶歌衰退の流れはもはや決定的で、全くと言って良いほど新たな動きは無い。昔を知る歌謡ファンには、正に残念と言わねばなるまい。
一方、海峡のこちら側の日本では、下火になったとは言え相変わらずの碕韓流ブーム鷺が続いており、Kポップの話題にはことかかない。
昨年、キングレコードよりデビューを果たした久々の大物実力派シンガーRAIN(ピ)の日本語版オリジナルシングル『SADTANGO』が、1月25日にリリースされ好調なセールスを更新中だ。本国はもちろん、中華文化圏でも人気が沸騰中で、今年は活動の拠点を日本へ移しヴォーカリストとしての貫通力、パーフォーマーとしての存在感に一層の磨きをかける作戦だ。
他にも、韓国で安定した人気を誇る男性シンガー、チョ・ソンモが大阪そして東京で公演を行ない、好評を博した。
98年にデビューし、180万枚を売り上げたチョは、タイトル曲『To Heaven』のドラマ仕立て長編ミュージック・ビデオが大きな反響を巻き起こし、今や“バラードの帝王”の呼び声も高いシン・スンフンに次ぐステータスを築き上げた。これまで売り上げたアルバムは何と800万枚に迫り、国民的歌手の仲間入りも果たしている。
日韓友好の真価が問われる今年、春風に乗って海峡の両側へどんな文化的トレンドが舞い降りるのか。ファンならずとも興味は尽きない。。