第14回韓国・日本・中国合同企画「BeSeTo演劇祭」の日本開催5周年記念事業が、12月21日から24日までの4日間、東京・初台の新国立劇場で開かれる。同演劇祭の意義について、演劇批評家の大岡淳さんに文章を寄せてもらった。
BeSeTo(べセット)演劇祭は、中国・韓国・日本という東アジア3カ国の演劇人が結集する演劇祭である。劇作家・金義卿(キム・ウィギョン/前国際演劇協会韓国センター会長)の呼びかけに、演出家・徐暁鐘(中国戯劇家協会副主席)、演出家・鈴木忠志(当時/国際舞台芸術研究所理事長、現在/舞台芸術財団演劇人会議理事長)が応じ、3者が各国代表を務めてスタートし、北京・ソウル・東京という3都市の名称を総合して「BeSeTo」の名が冠せられた。
第1回は1994年にソウルで開催され、以来、韓国→日本→中国の順番で毎年開催されており、今年で14回目を数える。この演劇祭は、演劇を通した文化交流を目的として3カ国が共同開催するもので、3カ国の優れた演劇作品が一堂に会する貴重な機会として、各国の演劇ファンにもその名が浸透している。
日本開催の年である今年は、富山県と東京都が会場となった。去る9月1日、富山県利賀村の利賀芸術公園で開催された前半戦では、中国からの参加作品である、北京市朝陽区文化会館『春柳社をさがして』と、韓国からの参加作品である、劇団風磬『女中たち』が上演された。また、同時期に開催された利賀演出家コンクールで優秀賞を受賞した、石井幸一演出『熊野』と岡田圓演出『雨月物語・蛇淫の性』も上演された。
さて、この年末、第14回BeSeTo演劇祭は後半戦に突入する。後半戦の目玉のひとつは、日本の演出家が中国・韓国のテキストを上演すること。鳥取で鳥の劇場を主宰する演出家・中島諒人が、中国近代文学の父・魯迅の原作を劇化した『剣を鍛える話―故事新編より』を、東京で「Power Doll Engine」を主宰する演出家・億土点が、韓国を代表する劇作家・朴祚烈(パク・ジョヨル)の代表作『呉将軍の足の爪』を上演する。
『呉将軍の足の爪』は、勇ましい名を持ちながらも、牛と恋人とおっ母と共にのんびりと暮らす東の国の農民・呉将軍(オ・チャングン)が、召集によって戦地に送られ、その臆病で朴訥とした性格ゆえに、敵国・西の国を欺く特殊任務を背負わされるという、滑稽ながらも哀切な物語。朴正煕政権下の74年に発表されながら、その風刺的な内容のためか上演が禁止され、作者自身を公演法改正運動へと向かわせ、14年後の88年にようやく初演されたという、韓国現代演劇史に足跡を残す傑作戯曲である。寓話的な体裁をとっているが、朝鮮戦争を題材としていることは明白であり、韓国軍に入隊して南に渡り、北に住む家族と引き裂かれた、朴祚烈自身の痛切な思いが託されていると解釈できる。
この戯曲に挑む億土点は、美的に洗練されたシャープな空間の造型と、舞踏の影響を受けた土俗的な演技の造型を得意とする演出家であり、朴祚烈が描く“戦争”を、この65年生まれの日本の演出家がどのように料理してみせるのか、興味は尽きない。
さらに後半戦のもうひとつの目玉は、演出家・鈴木忠志がゴーリキーの『どん底』を、廃車が居並ぶ終末的な光景の中で再構成してみせる『廃車長屋の異人さん』に、日・中・韓3カ国の俳優が出演するということ。韓国では、今年4月ソウルでオーディションがおこなわれ、約300人の参加者の中から、3人の俳優が選出された。
世界的に評価されている独自の身体技法に基づいた演出で、世界演劇をリードし続けてきた鈴木が、3カ国の俳優を起用して作り上げる舞台は、現代演劇シーンにおける先進的な試みであるばかりか、新時代の文化交流のモデルともなりえよう。ちなみに鈴木は、韓国からの強い要望に応え、来年韓国俳優版『エレクトラ』を演出し、ソウルその他で上演する予定である。
以上に加え、既に日本の若手劇団11団体による公演も始まっている。「グローバリゼーションとナショナリズム」をテーマにしたシンポジウムもおこなわれる。演劇に関心のない向きも、ぜひBeSeTo演劇祭に御注目いただきたい。
■BeSeTo演劇祭日本開催5周年事業日程■
◇新国立劇場 中劇場
【廃車長屋の異人さん】 12/21(金) 18:30~(貸切)12/22(土)・23(日)・24(月) 15:30~
◇新国立劇場 小劇場
【剣を鍛える話】 12/22(土) 13:30~ 12/23(日) 18:30~ 24(月)トーク&パネル・ディスカッション 17:30~
【呉将軍の足の爪】 12/22(土) 18:30~ 12/23(日) 13:30~ 24(月)トーク&パネル・ディスカッション 17:30~
問い合わせ:℡03・3445・8010(舞台芸術財団演劇人会議)