韓日の若手ダンサーが新作ダンスを発表する「第9回日韓ダンスコンタクト」が、3プログラムに分かれて20、22、24日に東京・青山の青山円形劇場で開催される。これに先立ち、同じプログラムが韓国・ソウルでも「韓日ダンスフェスティバル」の名称で開催された。日本公演を前に、実行委員会の高谷静治さんに文章を寄せてもらった。
「韓日ダンスフェスティバル(日本での名称は日韓ダンスコンタクト)」は第20回を迎え、同一年度に韓日相互に公演をしたとしても、もう10年の歴史をもつ。このフェスティバルの創立者でもあり韓国側代表でもある沈哲鍾さんは、先駆的な身体表現アーティストで、どんな苦境に立たされてもあきらめずにこのフェスティバルを続けてきた。日本側が主に経済的な事情から主催者がギブアップをしても沈さんはまた新しい日本側パートナーを探し、継続してきたのだ。
そして韓国側の文化支援機関もこの10年の活動の大半に助成をしてきたと聞く。同一団体に継続助成がされにくい日本に比べ、“継続する事業”にこそ助成するという考え方の違いがうらやましい。現在、日本での公演は青山円形劇場が主催を引き受けている。
このフェスティバルに参加するアーティスト、カンパニーは韓日それぞれのフェスティバル委員会が選考し、選考した映像を相手国の委員会に送り、相互で意見交換をするのだがこの段階で韓日の間に意見の相違が出る。それは委員会の構成メンバーを日本側がコンテンポラリーダンスを軸としているのに対して韓国側は伝統舞踊、創作舞踊、現代舞踊、前衛演劇系など多岐にわたる委員で構成されているからだ。
そのため韓国側の参加アーティスト、カンパニーの中には時として伝統舞踊や前衛演劇などの色濃いものがダンスとして紹介されたりする場合がある。これに対して日本の舞踊評論家が苦言を呈したと言うことを聞いたことがあるが、韓国のダンスフェスティバルの多くは舞踊のジャンルを横断した形で開催されることが多く、それが舞踊全体の生き残りと各ジャンルの舞踊の向上につながっている気がする。
狭小なコンテンポラリーのスタンダードを振りかざすよりここはいろいろなタイプのダンスを楽しむのも一つの方向として、韓日両国のフェスティバル委員会も了承しているようである。
さて、今回の「韓日ダンスフェスティバル」だが、金正恩の「踊るモノローグ-赤」と神村恵の「斜めむき」が印象に残った。いずれも特に物語る要素はなく、たんたんと、心情ではなく心象を、身体を用いてスケッチしている。作者の心象と客席のすべての人の心象風景は違うと思うが、そこには人の数だけ心象の花びらが残されたのである。これは筆者個人の考え方だが、ダンスという身体表現は、物語をつむぎだして観せるのではなく、そこに立ち会った観客に物語を創らせるものなのであろう。
三つのプログラム12作品を観たが、舞踊のタイプの違いはまったく気にならず、むしろコンテンポラリーダンスと言われている分野で、身体言語としてのボキャブラリーの乏しさを感じる昨今、韓国の伝統舞踊系の作品の身体言語の豊富さと実験的な舞台表現に驚かされることがある。
このような背景の中で今回もっとも注目したのは日本の小劇場系演劇で多彩な活動をしている女優美加理と、韓国伝統楽器ヘグム奏者として世界的に活躍しているカン・ウンイルとの共同作品「ソウルインプロビゼーション」であるが、これがまた見事に昇華された舞台となっていた。空間を飛び交うヘグムの音はある時にはオーケストラのように、ある時はすすり泣く声のように自在で、そのデリケートな音の彩は驚異的なものがある。加えて美加理の身体もヘグムの音に交感して、狂女のように、童子のように、王女のように、空間を駆け抜ける。そこには伝統芸術とか同時代芸術とかのボーダーなどあっさり乗り超えた韓日のパフォーマーと音楽家の“想像力を喚起させる”力業が輝いていた。これらのプログラムが間もなく東京で上演される。注目してほしい。(たかや・せいじ ダンストリエンナーレ東京09 フェスティバルディレクター)
■第9回日韓ダンスコンタクト■
日時:Aプロ=20日午後7時
Bプロ=22日午後7時
Cプロ=24日午後6時
場所:青山円形劇場
料金:前売り3,300円、当日3,500円
℡03・3797・5678