昨年秋、東京・八王子で開かれた「第1回ガスパール・カサド国際チェロ・コンクール」の優勝者、韓国のソンミン・カンの第1回入賞記念コンサートツアーが6日から全国3カ所で開かれる。抱負を聞いた。
――昨年優勝した時の感想は。
他のコンクールに挑戦して優勝したとしても、このコンクールでの優勝ほどの喜びはないように思う。それほどにカサドコンクールでの優勝は貴重で、喜びで胸が一杯になった。私の音楽人生において大きな転換点となったといえる。
――どのような音楽教育を受けてきたか。
母がクラシック音楽をとても好きだった影響で、小さいときから声楽、バイオリン、ピアノなど様々な楽器を学ぶ機会に恵まれた。その中でチェロを選んだが、チェロの次に好きなのがピアノだ。
――チェロの魅力とは?
穏やかで暖かく、音を豊富に出せるところが好きだ。バイオリンを習っている時は、耳元で演奏しなければならないので高音が実に大変だったし、何かはがゆい思いを感じていた。チェロは、男性的な音と女性的な音を思い切り出せるところが良く、自分に合っていると思う。
――今後の抱負は。
チェリストとしての活動だけではなく、作曲と指揮の勉強もしたいと考えている。私は新しい曲に接するたびに、その曲の作曲者が最も素晴らしい音楽家だと痛感するようになった。また、新たなオーケストラを誕生させる指揮者は、本当に魅力的だ。
小曲ではあるが、いまでも時間があれば作曲をしている。私が作曲した曲を指揮できる日まで、熱心に努力したいと考えている。
それと韓国は、他の国に比べてクラシック人口が少ないように思う。クラシック音楽を大衆化させる方法について、私たち若い世代がもっと関心を持って研究してみてはどうかとも思っている。
――韓日文化交流についてどう思うか。
他国の文化に接することができるのは、胸が踊るように嬉しいことだ。自身のアイデンティティーを理解しつつ他国の良い文化を受け入れれば、文化の多様性を感じ、楽しむことができるので、この上なく良いことだし、互いに文化的発展を遂げることが出来ると思う。
ソンミン・カン 姜スンミン。1987年韓国生まれ。高校を飛び級し韓国芸術大学入学。国内外のコンクールで優勝を重ね、2006年「第1回ガスパール・カサド国際チェロ・コンクール」1位入賞。
■「ガスパール・カサド国際チェロ・コンクール」とは?
20世紀最高のチェリストのひとりであるガスパール・カサド(1897~1966)の名を冠した国際コンクール。若く優秀な音楽家の発掘と育成のために、カサドの妻であった日本人ピアニスト故原智恵子(1914~2001)の主宰により、カサド没後の1969年に、イタリア、フィレンツェ市の協賛を得て第1回目を開催して以降、90年の第10回まで続いたが、原智恵子の逝去とともに途絶えた幻のコンクールとなっていた。
最期の時を多摩地域で過ごした故原智恵子の遺志が、八王子の市民有志で設立されたNPO法人チェロ・コンサートコミュニティーに引き継がれ、16年の歳月を経て昨年秋、実行委員会によってコンクールが実現。世界74カ国の若手チェロ奏者が応募し、その中から24カ国36人が八王子での本選に参加。ソンミン・カンが見事優勝した。
日本各地で音楽祭やコンクールが開催されているが、チェロをテーマに掲げた国際水準のコンクールはなく、世界的に見ても極めて希少かつ貴重なコンクールとして、今後が注目されている。