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2007/01/19

<韓国文化>韓国映画の多様性に触れる

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    『キムチを売る女』 配給支援KOFIC

 韓国アートフィルムショーケース(KAFS)が、27日から東京・渋谷のシアター・イメージフォーラムで開催される。海外映画祭などで注目を浴びる新鋭監督の4作品を、韓国映画振興委員会(KOFIC)の支援を受けて上映する企画だ。上映作品第1弾『キムチを売る女』のチャン・リュル監督とKOFIC委員長のアン・ジョンスクさんに話を聞いた。

 ◆孤独と絶望の中で チャン・リュル監督◆

 主人公の女性のように、キムチを売って歩く朝鮮族の女性は、中国のどこにでもいる。キムチは中国人の食卓にも受け入れられているし、キムチを行商する女性が、底辺の存在ということも知られている。映画では朝鮮族の生活のふんいきを出来るだけ出すようにした。

 中国には200万人の朝鮮族がいるが、13億という人口の中ではほとんど見えない存在といっていい。朝鮮族が多数を占める自治区でやっと目立つ程度だ。

 映画の主人公は絶望から立ち直ろうとするが、その道のりは厳しい。そこから何を感じ取るかは観客の判断にまかせたい。

 人間にとって記憶とは大切で美しいものだ。人は血統を選んで生まれることはできない。朝鮮族に生まれたことは、私の作品世界に当然影響している。個人の立場で映画を作りたいと思っても、ルーツから逃れることは不可能だからだ。主人公の女性も子供にハングルを教えようと努力している。

 在日の人たちも、ぜひ記憶を大切にしてほしいと思う。記憶は自己確立に欠かせないことなのだから。

 私は作家から映画監督に転進した。執筆は一人だけの孤独な作業だが、映画は多くの人との共同作業なので、それだけ責任も増えるし、毎日が闘いだが、とてもやりがいがある。

 第2作では、朝中国境の豆満江を舞台に、脱北者や朝鮮族の姿を描きたいと考えている。

 今後、東アジアの映画交流が盛んになることを希望するし、その一助を果たしたい。

 ◆映画大国を目指す アン・ジョンスクKOFIC委員長◆

 韓国映画振興委員会(KOFIC)は、73年4月に映画振興公社としてスタート。99年5月に映画振興委員会となり、現在に至っている。

 映画を主要な産業コンテンツと位置づけ、韓国映画振興のために、年間100億円を拠出している。2011年までに世界の5大映画大国入りを目指しており、そのための追加予算投資も決定している。

 また、マイノリティー映画の開発・制作・配給を支援することによって、多様な映画が共存できる環境作りにも取り組んでいる。
 
 日本の映画ファンに、多様な韓国映画を知らせたいと考え、その一環としてKAFSを支援することになった。韓国映画の奥深さを日本の映画ファンに知ってもらい、同時に、韓日文化交流に役立てればと考えている。

 昨年韓国で大ヒットした映画に『グエムル』がある。単なる怪獣映画ではなく社会問題を織り込み、韓国国内では話題となり大ヒットした。日本でも昨年公開されたが、残念ながら不入りだった。

 韓日映画事情の分析・調査を行い、韓日、そして世界でヒットする映画をどう作っていくかも大切な課題だ。日本、米国、中国にKOFICの事務所を置き、市場動向の調査や合作映画を増やす方法なども考えている。

■韓国アートフィルム・ショーケース■
日程
前夜祭=27日
『キムチを売る女』28日より
『不機嫌な男たち』2月中旬より
『許されざるもの』3月上旬より
『映画館の恋』3月下旬より
会場:シアター・イメージフォーラム
料金:前売り1,300円、当日1,800円
℡:03・5766・0114


■映画『キムチを売る女』■

 在中3世の朝鮮族出身者で、現代の中国文学を代表する作家としても有名なチャン・リュルは、映画製作のキャリアを積まずに初めて監督した短編「11歳」が、ベネチア国際映画祭に招聘され、その特異な映像表現が映画人を震撼させその名を広く世界に轟かせた。

 生きた光が呼吸しているような画面の質感、絵画的な空間構成、抑制された演出技法に裏打ちされた彼の作品は、映画でしか語れないものを最もシンプルな映像で表現するというアート・フィルムの本来あるべき姿を私達に提示している。

 絶対的な孤独、絶望的な状況。それでも母と息子は一生懸命生き抜いた。中国北部の片田舎、キムチの露天商で生活を営んでいる母と息子。暗い過去を引きずりながらも平凡な毎日をつましく暮らしている朝鮮族親子の日常を透明感のある詩情豊かな映像で描いた。

 絶望的な状況・絶対的な孤独のなかで人はどのようにして己の魂を解放させるかを描いた作品である。

 チャン・リュルは韓国と中国2つの国にルーツを持ちながら、どちらにも属しえない朝鮮族を物語の主人公に据える事で、ボーダーレスな社会におけるアイデンティティーのゆらぎを映像化した。

 クライマックスで悲劇的な暴挙にうってでる若く美しい主婦が、映画のラストで見せる姿は、絶望の淵における個の力強さをスクリーンに刻みつけた名場面として長く記憶にとどめられることだろう。

 中国籍韓国人を朝鮮族という。彼らのほとんどは「祖国」は中国と考えており、在中韓国人とは区別されている。現在中国には約200万人の朝鮮族がるが、その多くが吉林省の延辺朝鮮族自治州を中心に中国の東北地方に住んでいる。