◆「38度線 非武装地帯を歩く」
(小田川興著、高文研、四六判、232㌻、1600円)
著者は元朝日新聞ソウル支局長。世界で最後の「冷戦」の現場といわれる38度線を訪ね、南北分断の軍事境界ラインに沿って、市民が近づける8つの地点、板門店、臨津江、金剛山、鉄原、江華島、実尾道、白翎島(ペクリョンド)、開城を歩き続けた記録。
特に韓国戦争の休戦会談の会場である板門店には、韓国への語学留学の頃から特派員時代、そして現在までの30年間に渡り幾度となく訪れ、その変化を見続けてきた。
韓国で大ヒットした映画「シルミド」の舞台となった実尾島、望郷の河として知られる臨津江など、南北分断の緊迫した空気が続いてきた現場、またこの間の雪どけの兆しなどを、豊富な写真とルポで伝えてくれる。
「民草連帯の翼に乗って、日本から一衣帯水の朝鮮半島へと『平和の素』を運ぶことで、アジアに『共生の果実』を結びたい」と、著者は訴える。
◆「韓国現代史 切手でたどる60年」
(内藤陽介著、明石書店、A5判、400㌻、2800円)
本紙2002年2月8日号から2007年3月30日号まで206回にわたって連載された「切手で見る韓国現代史」から、主要な記事をピックアップして書籍向けに加筆訂正したもの。
1945年の解放から2008年2月の李明博政権誕生までの歴史を、見開き2ページずつのコラム形式でたどる。
300点以上の切手・郵便資料から読み解く韓国現代通史。切手マニアから専門家まで読んで楽しく学べるユニークな本。
「韓国郵政のルーツ」「年賀切手」「寄付金つき切手」「郵便料金の変遷」などのコラムも面白い。
著者は東京大学文学部卒。郵便学者、切手の博物館副館長。
◆「かささぎ」
(ジェームス三木著、NHK出版、四六判、264㌻、1400円)
NHKで昨年秋に放送されて話題となったスペシャルドラマ「海峡」の作者、ジェームス三木氏が、シナリオをもとに書き下ろしたオリジナル小説。
太平洋戦争終戦を迎えた韓半島・釜山。日本への引き揚げを余儀なくされた朋子は、韓国人青年・朴と愛し合うようになる。しかし、韓日両国の間にまたがる海峡は幾度も2人を引き離す。密航、強制送還、やがて韓国戦争が勃発し、2人は生き別れる。再会の日は果たして来るのか 。
昭和という時代に翻弄された日本人女性の、国境を超えた愛の物語。
◆「光州の五月」
(宋基淑著、金松伊訳、藤原書店、四六判、408㌻、3780円)
著者は韓国を代表する小説家。1980年5月に起きた現代韓国の惨劇、光州民主化抗争(光州事件)。凄惨な現場を身を以て体験し、抗争の首謀者として逮捕され、1年間服役。その後、現代史資料研究所を設立し、数百名に上る証言を集め、収集・整理作業に従事し、光州事件の意味を渾身の力で描いた長編小説。2000年に韓国で出版されて話題となった。英訳が出版されたのに続き、今回の日本語訳刊行となった。韓国民主化闘争の歴史、軍隊とは何かを考える上で必読といえる。
◆「人間の砦 元朝鮮女子勤労挺身隊・ある遺族との交流」
(山川修平著、三一書房、四六判、356㌻、2000円)
第2次大戦下、元三菱重工名古屋航空機製作所道徳工場(愛知県)で軍用機の生産に従事させられた「朝鮮半島女子挺身隊勤労奉仕隊」の少女たち(当時13~15歳)の歩んだ苛酷な運命と、未払い賃金等の補償を求めて起こした裁判闘争の動きを、著者が一人の日本人としてどうかかわってきたかを、自らの生きざまを通して描き出している。
第1審に続き昨年5月の名古屋高裁でも原告らの訴えは斥けられたものの、「(脅迫等によって女子挺身隊員に志願させたものと認められ、これは強制連行であったというべきである」と、加害の事実は認め、国と企業に何らかの解決の方途を示唆した。
原告の多くが亡くなり、生存者も80歳前後の高齢となるなか、「一人ひとりの小さな人間の砦」が必ず勝利すると、著者は語る。
◆「分断時代の法廷 南北対立と独裁政権下の政治裁判」
(韓勝憲著、舘野あきら訳、四六判、268㌻、2800円)
朴政権時代の1965年から1987年の民主化宣言を経て今に至るまで、弁護士生活足掛け40年(自らも反共法により逮捕、8年間弁護士資格を剥奪された)の著者が、弁護を担った政治裁判事件の概要と裁判闘争を証言する。民主化と南北統一のために闘った人々から見た韓国現代史。弁護を依頼した金大中元大統領が推薦文を寄せている。
◆「海鳴り」
(辛榮浩著、新幹社、四六判、196㌻、1500円)
在日が背負う歴史について書いた短編集。祖国統一、民族教育、組織対立、国際結婚、従軍慰安婦問題、浮島丸事件などについて記されている。著者は1936年京都生まれ。民族学校で教鞭をとった後、現在「群星」「草笛」同人。
◆「『北朝鮮』再考のための60章 日朝対話に向けて」
(吉田康彦著、明石書店、四六判、272㌻、2000円)
「拉致事件」発覚以来、北朝鮮を感情的に弾劾する論調は今なお根強い。そうした中で著者は訪朝を重ね、いまこの国で起きていることを冷静に見定めようしてきた。日朝対話と相互理解の可能性を模索し続ける、著者の思いが伝わる。