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2008/06/13

<韓国文化>朝鮮陶磁に魅せられ独自の作風

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              特別展「陶匠・濱田庄司」出展作品より

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              日本民藝館で自作を前に立つ濱田庄司

 特別展「陶匠・濱田庄司―没後30年記念―」が東京・駒場の日本民藝館(小林陽太郎館長)で6月17日から8月31日まで開かれる。同館の二代目館長であった陶芸家・濱田庄司の没後30年を記念し、その歩みと仕事を振り返る企画で、館蔵の皿・鉢・茶碗・壺などの代表作約150点を紹介する。濱田庄司は、栃木県益子を生活の拠点に、柳宗悦らと民芸運動を展開した。韓国の古美術にも強い関心を示し、韓日文化交流にも貢献した。杉山亨司・日本民藝館学芸部長に文章を寄せてもらった。

 濱田庄司(はまだしょうじ)は、1894年に現在の神奈川県川崎市に生まれる。少年時代は画家を目指していたが、中学時代に焼物の道を志し、1913年に東京高等工業学校(現・東京工業大学)の窯業科に入学する。同校では、2年上級の河井寛次郎と親しく交わり、卒業後は河井と同じ京都市立陶磁器試験場に入所する。この時期、個展会場で知り合ったバーナード・リーチを千葉県我孫子の柳宗悦邸に訪ね、その折に柳とも親交を結んだ。

 1920年、帰国するリーチと共に渡英した濱田は、セント・アイヴスで作陶生活を始める。3年半にわたる英国での生活は、「良き仕事」の背後にある「よき生活」の重要性を発見する契機ともなった。また、滞英中に発見したスリップウェアも忘れてはならないだろう。スリップウェアとは、18世紀から19世紀にかけて作られた無名陶工達による日用の雑器である。あたかも同じ頃、日本では柳宗悦が民間で用いられてきた日用雑器に美を見出し、その美についての思索を深めつつあった。

 ロンドンでの初の個展を成功させた濱田は、関東大震災の報せを受け、1924年に帰国。京都の河井家にしばらく逗留していた濱田は、ちょうどその頃京都に転居していた柳宗悦を河井に引き合わせる。そして、程なく、彼らは日用雑器の美への関心や喜びを深め合い、「民藝」という新しい美の概念を打ち立てて、日本独自の工芸運動を始動させていくことになるのである。

 1930年、濱田は英国で経験したような、確かな暮らしに根ざした自由な制作の場を求めて、関東を代表する民窯の地である栃木県益子に終生の居を構える。以後、濱田はこの益子の地を拠点にして、日本本土はもとより、沖縄、朝鮮、英国など広く世界に視野を広げながら、様々な時代や地域で生まれた生活雑器の美の生命を感得し、それを創造の糧としながら、独自の表現方法を拓いていった。

 特に、帰国後の濱田の作風には、英国で魅了されたスリップウェアは勿論だが、朝鮮陶磁の影響を強く見ることができる。渡英前の1919年、河井と共に初めて朝鮮半島を訪れた濱田は、朝鮮民族の生み出した器物に心惹かれ、また英国にいる間も、柳宗悦が編集参加していた雑誌『白樺』を通して朝鮮陶磁に触れていた。そんな濱田にとって、朝鮮陶磁は当然、帰国後に取り組むべき大きな美の対象となっていたといえよう。そして、帰国後も、濱田は度々朝鮮半島を訪れている。

 濱田は、朝鮮陶磁器の魅力について「李朝の陶器では一番形に感心する。実に生き生きしていて味が深く、自由さに少しも滑った所がない」と述べている。事実、その後の濱田の作品には、その形状を参考にしたと思われる品が数多く見られる。また、濱田の得意とした「刷毛目」や「面取」の技法も、朝鮮陶磁から取り入れたものといえよう。

 このように、濱田の手法には、古今東西の作陶技法の様々な要素が取り入れられている。そして、それらを見事に吸収し融合させながら、自らの血肉に変え、独自の表現方法にまで高めていったのである。

 尚、濱田は食器と共に数多くの抹茶碗を制作している。盟友の柳宗悦は、「濱田の茶碗をこそ中興の作と呼んでいい」と語っているが、茶の本来の精神にふさわしい「健やかさ」を、柳は濱田の茶碗の中に見出したのであった。濱田は自身を「陶芸家」ではなく、好んで「陶工」と称していたが、それは古来からの無名陶工の仕事が手本であり、理想としていたことの何よりの証といえよう。

 1955年には第一回重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定。1968年には文化勲章を受賞した。1961年、柳の亡き後は2代目の日本民藝館館長に就任し、民藝運動を物心両面から支えた。1977年には自作と蒐集品を展示する益子参考館を開設。そして、翌年、惜しまれつつ83歳の天寿を全うしたのであった。(杉山享司・日本民藝館学芸部長)


■特別展「陶匠・濱田庄司」■

日時:6月17日~8月31日
場所:日本民藝館(東京・駒場)
料金:一般1000円、大高生500円
℡03・3467・4527
*28日午後6時より、濱田晋作氏(益子参考館館長)による記念講演会「対談・父と師 濱田庄司を語る」あり。料金300円。要予約。