韓日合同公演「焼肉ドラゴン」が、4月17日から27日まで新国立劇場で5月20日から25日までソウル芸術の殿堂で上演される。ソウル芸術の殿堂と新国立劇場のコラボレーションで、「その河をこえて、五月」(2002年初演、05年再演)に続く第2弾となる。万博が開催された1970年の大阪を舞台に、焼肉屋を経営する在日家族の姿を通して、韓日の過去・現在・未来を描き出した、在日の劇作家、鄭義信の書き下ろし作品である。鄭義信さん、そして共同演出の梁正雄さんに話を聞いた。
――在日を主人公にした劇を書くのは初めてとか。
韓日合作作品の脚本を依頼されて、どんなテーマがいいかと考え、在日の家族を主人公にしようと考えた。これまで在日をオブラートに包んだ形で登場させたことはあったが、在日をストレートに描くのは初めてだ。
私の育った家庭や、知人をモデルにしながらシナリオを考えた。出演者も日本人、韓国人、そして在日の落語家・笑福亭銀瓶さん、(役者兼ピアニストの)朴勝哲さんらが共に出演する混合舞台になる。
日本や韓国の観客が見て、在日はやかましいなと思ってもらえたら面白い。民族差別、貧困、北朝鮮への帰国船などの話も出てくる。在日の小さな焼肉屋にどれほどの歴史が刻まれているか、ゴーリキーの戯曲『どん底』と同じものを、観客が感じ取ってくれればと思っている。
――高度成長期を背景にしたのは?
物語の舞台は69、70、71年の関西地域だ。大阪万博のため関西経済は活気付いていた。70年は時代の一つの転換期だ。私は実家が大阪なので、万博も見に行った記憶がある。万博は光り輝いていたし、確かに高度成長の時代だったが、その裏で在日は果たしてどう生きてきたか。歴史には表もあれば裏もある。高度成長期の裏側を描きたかった。
映画「ALWAYS三丁目の夕日」がヒットしたように、昭和への懐古趣味があるが、「貧しいけれども美しい」という言葉には抵抗感がある。世の中には貧しくずるい人もいる。それが生きることなんだと示したい。
――主人公は戦争の影を引きずっているが。
この間、芝居のテーマなどで戦争について研究している。今回も戦前から戦後を描こうと思ったが、あまりにもテーマが大きくなりすぎたので、時代背景をしぼった。
主人公はある日、戦争で失われたものの大きさにがく然とする。戦争については、今後も取り上げていきたい。
――家族の物語としても興味深い。
家族は一番小さな共同体、それがいま瓦解している。日本の家族も在日の家族も、そして共同体そのものも瓦解しているといっていい。家族、そして家族を取り巻く人々がどうなったか、それを描きたかった。在日はいま5世、6世まで出てきた。在日コミュニティーも変貌し、意識も変化している。在日社会というものは消滅していくかもしれない。各自が考え、生きていけばいいのでは。
在日文化についていえば、私もマイノリティーの一員であるが、日本語で書き、日本で上演する以上、(自分が書くのは)日本の演劇だと思っている。
チョン・ウィシン 93年『ザ・寺山』で第38回岸田國士戯曲賞、同年『月はどっちに出ている』の脚本で毎日映画コンクール脚本賞。現在テレビ・ラジオのシナリオで活躍する一方、戯曲執筆、演出と幅広く活躍。
◆在日に以前から関心 共同演出 梁 正雄さん
在日についてはずっと関心を持っていて、ドキュメントや映画などを数多く見てきた。日本でも韓国でも在日の生活は知られていないと思うので、ぜひ見てほしい。家族とは、人間とは何か、考えさせられる作品だ。文化や国境を越え、人間の普遍的な愛と喜び、悲しみの感情を感じ取ってもらえればと思う。
韓国の俳優はエネルギッシュで、日本の俳優は繊細な演技をする。脚本を執筆した鄭義信さんとの共同演出なので、鄭さんの演出を第一にし、例えば法事のシーンで韓国の風習を助言したりなど、それをフォローするようにしている。
ヤン・ジョンウン ソウル芸術大学文学創作科卒業。数々の演出を行い、世界各国のフェスティバルにも参加。オペラ『天生縁分』の演出も手がけ、2007年6月東京で上演された。
■あらすじ■
舞台は万国博覧会が催された1970年、高度成長の真っ只中。高度成長に浮かれる時代の片隅で「焼肉ドラゴン」の赤提灯が今夜も灯る。店主・金龍吉は太平洋戦争で左腕を失ったが、それを苦にすることもなく淡々と生きている。家族は、先妻との間にもうけた二人の娘、後妻・英順とその連れ子、そして英順との間に授かった一人息子。そんな「焼肉ドラゴン」にも次第に時代の波が押し寄せる 。
■焼肉ドラゴン■
日時:4月17~27日
場所:新国立劇場小劇場
料金:A席4200円、B席3150円
℡03・5352・9999
※5月20~25日、ソウル芸術の殿堂で韓国公演