「新宿梁山泊」(金守珍主宰)の第37回公演「TORAJI」が、26日から31日まで都内の劇場で行われる。韓国現代演劇を代表する作家・呉泰錫(オ・テソク)氏の作品で、朝鮮時代末の開化派の指導者、金玉均(キム・オッキュン)を描いている。
新宿梁山泊が初の韓国公演を行ったのは1989年。韓国内では一般観客はもとより演劇関係者の中にも日本の劇団の公演に反発のある頃だった。その中にあって、韓国演劇協会と共にソウル、全州、釜山での新宿梁山泊公演の実現に尽力したのが、韓国の代表的な演劇人であり、「TORAJI」の作家呉泰錫である。
19世紀の朝鮮朝の政治家、金玉均を描いた本作は、92年に日本演出家協会主催の演劇人国際交流92「日韓演出家会議シンポジウム」の公開ワークショップとして日本でダイジェスト上演され、94年、呉泰錫氏の主宰する劇団「木花」によってソウル・芸術の殿堂で初演された。が、その評価は賛否両論であった。
韓日の近代史の論点ともなる題材に対して、韓国を代表する劇作家があまりにも日本寄りな内容に描いたという論評もあったという。
呉泰錫氏の「木花」劇団員であり、弟子ともいうべき劇作家、洪元基氏の作品「YEBI大王」を、新宿梁山泊が06年に日本/韓国で公演を行った(07年にはルーマニアで上演、08年にはブラジルでのツアーが予定されている)。
そのソウル公演時、「TORAJI」の主役・金玉均を演じた俳優より、韓日の物語を描いた「TORAJI」が日本で公演されていないのは哀しい、ぜひ新宿梁山泊によって日本で上演して欲しいと打診があった事から、今回の上演が決まった。
古代の寓話「パリデギ伝説」を題材にした「YEBI大王」は、民族や歴史という枠を越え普遍的な物語として自由に描かれていたが、「TORAJI」は日韓関係の暗部ともいうべき閔妃暗殺を背景に、朝鮮独立の為に奔走した実在の政治家、金玉均の活動を描いた作品であり、物語はほぼ史実に沿って進行する。
韓国内でも英雄なのか反逆人なのか評価がわかれる人物であり、日本においてはその存在は歴史に興味のある人以外はあまり認識されていない。韓日近代史タブーの1つといえるなど、上演にはいくつかの不安があったが、人間の本質を愛情を持って描くことには定評のある呉氏の作品の力を評価し、今回の上演となった。
物語は史実/劇作取り混ぜて、目まぐるしく展開する。朝鮮朝の王宮、日本、フランス、小笠原、北海道、上海行きの船、オランダ国際会議場、そして金玉均の墓のある東京の小さな寺(実際は青山外人墓地)1時間40分程の作品の中でシーンは20を越える。
この上演のために、若い韓国人俳優が来日している。「木花」と並ぶ韓国の代表的な劇団「演戯団コリペ」の元団員だった沈完輔氏だ。今回は、金玉均を暗殺した洪鐘宇を演じ、慣れない日本語の練習から取り組んでいる。
■新宿梁山泊「TORAJI」
日程:26~31日午後7時
(29、30日は午後2時あり)
場所:芝居砦・満点星
料金:一般前売り3000円、当日3500円
℡:03・3385・7188
■プレゼント
同公演に各日2組4人をご招待。住所、氏名、年齢、職業、電話番号、希望日を明記の上、東京本社・読者プレゼント係まで。
■金玉均とは
1851年生まれ。朝鮮の近代化をめざす開化派の指導者。日本を視察して福沢諭吉らと親密になり、留学生派遣などを行った。日本の援助を期待し、国王・高宗を啓蒙して国家改革運動を積極的に推進した。
一方、守旧的な高宗の妃である閔妃やその親族である勢力は、清国を背景とし、二派は激しく対立した。金玉均は1884年クーデターによる政権掌握(甲申の変)をはかったが、閔妃の要請で駆けつけた清国軍の攻勢にあって敗走。日本に亡命し、小笠原諸島や北海道に10年間軟禁された。
金玉均の台頭を恐れた閔妃の差し金により、1894年上海で刺客・洪鍾宇により暗殺された。