ここから本文です

2008/02/22

<韓国文化>在日新世紀・新たな座標軸を求めて⑩                                                ― 在日美術家を長年支援、祖国の文化発展に貢献 河 正雄さん ―

  • bunka_080222.jpg

    ハ・ジョンウン 1939年東大阪市生まれ。秋田県立秋田工業高等学校機械科卒業。株式会社かわもと代表取締役、韓国・朝鮮大学校美術学名誉博士・客員教授、光州市立美術館名誉館長、在日韓国人文化芸術協会前会長、ソウル特別市および光州広域市名誉市民など。著書に『韓国と日本、二つの祖国を生きる』(明石書店)ほか。

 在日文化運動の旗手の一人として、数多くの在日画家の作品をコレクションし、その芸術活動を支えてきた。在日美術家の作品を収集し、研究した人は類例がない。在日画家の作品を含め、絵画、版画、彫刻など河正雄コレクションは数千点に及ぶ。その河コレクションを光州市立美術館(全羅南道)に数次に渡り、そして韓国・朝鮮大学校美術館、霊岩望郷美術館、釜山市立美術館に寄贈し続けている。

 「青春期を過ごした秋田県の田沢湖畔に、姫観音像がある。戦時中に強制労働による朝鮮人が田沢湖周辺のダム工事などで働かされ、亡くなった人たちが無縁仏として葬られた。姫観音はその朝鮮人の慰霊碑であることが91年に判明した。私は同胞の霊をなぐさめるため、在日の美術作品を展示する美術館を建立する案を仙北市に提言した。市の賛同を得たが、韓日関係が戦後補償問題などでぎくしゃくし頓挫した」

 「93年、光州市から、芸術文化発展のため光州市立美術館を建てたが、所蔵品、展示作品が少ない。河正雄コレクションを寄贈してもらえないか。美術館を育て、運営を手伝ってほしい、そして光州市を愛してほしい、と依頼された。光州市は、韓国現代史の中でも不幸な歴史を背負った場所である。『祈り』をコンセプトにした河コレクションを寄贈するのは意味があると考え、決意した。これまで3次に渡って寄贈し、年内に第4次の寄贈を行う。作品は合わせて3000余点。全和凰、郭仁植、孫雅由などの在日の画家展、在日の人権展などを行ってきた。在日の作家の画歴を検証し、韓国の人々に作品に込められた在日の思いを知ってほしかったからだ」

 光州市立美術館は昨秋、15周年を記念して新築され、その記念として「在日の華」展を開催。改めて河正雄コレクションの再評価がなされた。

 この「在日の華」展が評判となり、釜山市立美術館で巡回展が開催されている(3月9日まで)。また河氏のルーツである霊岩の陶器文化センターにも河コレクションが寄贈され、今春オープンする。2010年には霊岩美術館がオープンする。

 日本でも在日美術家に対する評価が年々高まり、李禹煥、郭仁植、文承根、孫雅由などの展示会が各地で開かれている。

 「河正雄コレクションは戦前・戦後の在日の歴史を網羅している。在日の美術品、文化遺産が韓日を結ぶ役割を担うことはとても意義深い。海外同胞は約700万人いるというが、美術品を通して海外同胞に光を与えたい。文化運動は在日同胞が生きていく一つのモデルとなると確信する」

 河氏は貧困家庭に育った。高校進学さえ危ぶまれたが、「私たちは無学だが、(息子には)教育だけは死んでも受けさせたい」と、父母が必死に学費を工面。しかし、大学進学はあきらめざるを得ず、画家になりたいという夢も果たせなかった。その後、電化機器の販売、不動産賃貸の仕事が転機となる。画家にはなれなかったけれども、在日の美術を守ることが使命と考え、コレクションを始めた。

 「在日は亡国の旅人として、辛苦と苦痛に耐え忍び、戦後の貧困と偏見の中でも一筋の光を希求しながら生き抜いてきた。全和凰の『祈りの芸術』は、その象徴ともいえる。在日の祈りは世界の祈りでもある。戦後美術の再評価が韓日でなされている。在日美術の再評価もなされるだろう。そうすれば在日の評価も高まるし、在日自らの自信にもなると確信する」

 コレクションを収集する過程で、中傷や偏見もあった。組織からは白い眼を向けられたこともある。

 「普遍的な権利意識を持つ人権擁護団体、そして学術や専門的な研究を行うのが在日団体であるべきなのに、綱領を逸脱し基本の勉強が成されていない。在日社会が豊かになれないのは、在日組織の思い上がりと自らのだらしなさが原因と思うときもある。在日組織は大きな視野に立って在日社会を守らないといけない。在日組織はこれまで、考えの違う者を排他し、差別をしてきた。だからいま、組織が疲弊し、信用組合や学校が潰れる原因になった。在日組織は猛省し、在日のために省察し出直してほしい」

 「在日の若者は、世界の中の存在となるよう、一歩一歩道を切り開いてほしい。世のため人の役に立つ生き方をしてほしい。文化は生活の中にある。生活の充実感、充足感がないと文化は生まれない。在日はまだ文化の蓄積が薄い。統一祖国で、そして人類史の中でも貴重な存在に在日がなるように努力してほしい。私も文化運動を通して、在日の存在を世界に示していく」