ここから本文です

2009/01/16

<韓国文化>多彩なモチーフに込められた庶民の願い

  • bunka_090116.jpg

    朱塗螺鈿寿文函(しゅぬりらでんことぶきもんはこ)㊧と、粉青沙器掻落牡丹文瓶(ふんせいさきかきおとしぼたんもんびん)

 新春を迎え、韓国関連の美術展が各地で開かれている。佐賀県唐津市の佐賀県立名護屋城博物館では、同館所蔵の韓半島の伝統的な工芸資料を展示・紹介する「韓国の伝統工芸―文様に秘められた美と心」展が25日まで開催中。吉祥(きっしょう)文字や植物・動物・風景・幾何学文などにスポットを当てた同展覧会の概要を紹介する。

 韓半島の木工芸品には、螺鈿(らでん)など様々な装飾技術によって美しい文様・図柄が表現されている。また、陶磁器にも象嵌(ぞうがん)・鉄絵といった技法による多彩な図柄を見ることができる。

 それらの文様や図柄は、吉祥文字(縁起のよい文字)や動物、植物など様々な事物がモチーフとなっており、当時の社会や思想が色濃く反映されている。

◇吉祥文字◇

 朝鮮時代の婚礼家具や調度品には、好んで吉祥文字が表現された。「喜」を図案化した「?」は現在でもよく使われる文様であるが、他にも「壽(寿)」や「福」などの文字や、それを図案化した文様が多用された。また、限りない長命を祈る「万寿無疆(まんじむきょう)」という言葉も見られる。そこには、人々の幸福・長寿への切なる願いが込められている。

◇植  物◇

 高麗時代以降の陶磁器や朝鮮家具の図柄には、吉祥を意味する様々な種類を見ることができる。

 牡丹は、花弁が多く豪華なことから、富貴を象徴する吉祥文として家具や陶磁器の図柄に最も好んで用いられた。松、竹、梅は、日本と同様に長寿、子孫繁栄・出世、不老長生を表すものであった。また、桃は中国の故事(西王母伝説)から長寿を意味する吉祥文とされた。延命の効用があると考えられた菊や、楊貴妃が好んでわざわざ西アジアから取り寄せたと伝えられる茘枝(れいし・ライチ)も同様に長寿を意味する文様である。

 多くの実・種をつける葡萄や石榴(ざくろ)は、多産・子孫繁栄を象徴している。唐草文は、もともと仏教の伝来とともに西域から東アジアにもたらされた文様であるが、朝鮮時代には仏教色は薄れ、装飾性を重んじて工芸品に多用された。

◇動  物◇

 動物の図柄は、権力を象徴するものと吉祥を表すものに大別することができる。

 権力を象徴する図柄は、王や王族だけが使用できた龍文に代表される。龍はもともと中国で天子の象徴とされ、5本爪の龍は皇帝の強い権力を示すものであった。中国の冊封体制下で藩属国となった朝鮮国では、国王は4本爪の龍文の使用を認められ、四爪龍の図柄は王や王族の調度品に多用された。また、虎や獅子・孔雀なども朝鮮国の官僚体制の中でその位階を表すものとして使われた。

 一方、一般民衆の間では、長寿を示す鶴や蝶、多産・子孫繁栄や夫婦円満を象徴する魚や鴛鴦(おしどり)・鶏、漢字の読みから福に通じるとされる蝙蝠(こうもり)など、様々な吉祥文様が好まれた。また、虎やカササギを組み合わせた「鵲虎図(じゃくこず)」はいわゆる朝鮮民画によく見られる図柄で、迎春を祝う縁起物の飾りなどとして広く用いられた。

◇風  景◇

 動植物・自然・人物などを一つの風景として絵画的に描き出したものも、家具の図柄によく見られる。中でも、吉祥の図柄とされる太陽・月・雲・山・水・松・竹・不老草(霊芝)・鶴・亀・鹿などのうち10種を一つの構図に盛り込んだ十長生文(じゅうちょうせいぶん)は、非常に縁起のよい文様として、上流階級だけでなく一般庶民の間にも広く普及し、家具や調度品に多用された(組み合わせ要素や数が異なる場合もある)。

 また、山中の水辺に立つ楼閣を描いた水墨画のような素朴な楼閣山水文や、中国の故事などをモチーフとした人物文も好まれた。

◇幾何学文◇

 単純で規則的文様を重ねて使用する幾何学文は、もともと家具や陶磁器に部分的に使用されてきたが、朝鮮時代には家具の全面を覆うものも見られるようになる。

 螺旋状の直線を組み合わせた雷文や三角形を並べた鋸歯文は、帯状の縁取りとして多用された。六角形の亀の甲羅を模した亀甲文は、長寿の亀にあやかった吉祥文として好まれた。陶器では、器の表面にスタンプによる連続文を同心円状に配して白土象嵌した印花文が、朝鮮時代前期に作られた粉青沙器の主要な文様である。


■韓国の伝統工芸■

日時:開催中(1月25日まで)
場所:佐賀県立名護屋城博物館
料金:無料
TEL 0955・82・4905