盲目の三味線奏者である春琴と、彼女に献身的に仕える丁稚の佐助、2人の愛憎を描いた谷崎潤一郎の代表作「春琴抄」。過去何度も映画化、舞台化された名作を、英国の著名な演出家サイモン・マクバーニーが舞台化した『春琴』の再演が、世田谷パブリックシアターで上演中だ(東京・三軒茶屋、16日まで)。
チョウソンハさんはその舞台で、佐助を演じている。純愛を貫くために自らの目をもつぶす佐助。その複雑な心情を伝えるには、数々の難役に挑んできたチョウソンハ以外にないとオーディションで見込まれての出演である。
「舞台で動くたびにナレーションが入るので、行動が制限される。そういう不自由さ、負荷を背負いながらどこまで演じきれるか。これまでにない経験で、昨年の初演時も苦労したが、再演ではさらに研ぎ澄まされた舞台になっているので注目してほしい」
サイモン・マクバーニーは、ローレンス・オリヴェイ賞など国際的な演劇賞を数多く受賞している英国の著名な演出家。十数年前に谷崎潤一郎の随筆『陰翳礼讃』を読んで、そこに秘められた谷崎の文明批評性と”陰影のあや”に魅せられ、谷崎文学をいつか舞台化したかったという。
そして昨年、世田谷パブリックシアターが、同氏と組んで『春琴』を作り初演すると、日本の美や感性を貫いた緻密で独創的な演出が評判を呼び、第16回読売演劇大賞最優秀演出家賞、優秀作品賞、同女優賞を受賞した。今年1月にはロンドン公演を実現させ、そして今回の再演となった。
「サイモンは、『日本人は一人が右足を出したら、全員が右足を出すいわば集団主義の民族で、発言よりも沈黙することが多い。欧米とは違う人たちを相手にどう芝居を作り上げ、耽美な世界を表現するか興味深い挑戦』と言っていた。サイモンの演出に応え、また春琴役の深津絵里さんと共演する中で、一回り大きくなれた気がする」
法政大学在学時、演劇サークルで活動。演劇の道に進もうと大学卒業後、北区つかこうへい劇団に入団した。2002年のことである。そこで1年間修行し、役者の基礎を身に付ける。翌2003年新たな道を求めて退団した。2004年ロバート・アラン・アッカーマン演出『エンジェルス・イン・アメリカ』に天使役で出演し、脚光を浴びる。以後、その演技力と存在感で地歩を固めてきた。
所属する劇団ひょっとこ乱舞の公演『プラスチックレモン』における演技で。2008年度文化庁芸術祭新人賞も受賞している。
「天使やエキセントリックな青年とか、難しい役どころが多い。ネガティブな性格なので役作りに悩むが、負荷がある分、逆にファイトがわく。年々、いろいろと責任が増すが、逆にやりたい事ができるありがたみもわかるようになった」
現在、韓国の伝統舞踊とチャンゴ(長鼓)を習っている。「自分の子どもに何を伝えるか考えたとき、また自分自身を見つめ直そうと思ったとき、ルーツの文化を知らなくてはと考えた。本籍地は済州道だが、4・3事件などの歴史的事実も知っておきたい。ひとりの在日として、ひとりの役者として、あるがままを生きて行きたい。そのためにも研鑽を積んでいく必要があると自覚している」