在日3世の金聖響さん(39)が、4月から神奈川フィルハーモニー管弦楽団の常任指揮者に就任する。在日の指揮者がオーケストラの常任指揮者になるのは初めてだ。金聖響さんに話を聞いた。
神奈川県の文化的シンボルとして、県民をはじめ広く愛されてきた神奈川フィルハーモニー管弦楽団。これまで黒岩秀臣、手塚幸紀、現田茂夫氏らが常任指揮者として活躍し、神奈川フィルの底上げに尽力してきた。
その後任として指名された金聖響さん。これまで5回神奈川フィルで客演を行い、気心が知れている。
「とても光栄な仕事だ。13年間指揮棒片手に過ごしてきたが、その中で何度も心が、魂が震えるような経験をし、音楽の素晴らしさを噛み締めてきた。それでも音楽にはまだまだ上がある。あってもいい音楽ではなく、なくなったら困る音楽を目指したい。神奈川フィルの質的向上のために、提言できることは積極的に発言したい。経済危機が続いているが、危機はチャンスでもある。いい音楽を提供すれば聴衆は必ず聴きに来てくれると確信している」
国際都市横浜には、在日コリアンはじめ数多くの外国人が住む。また今年は横浜開港150周年にあたり、6月27日には横浜開港150周年記念コンサートが開かれ、金さんがタクトを振る。
「外国人のコミュニティー同士、また日本人と外国人との交流など、音楽を媒介に、国境を超えて人がどこまで近づけるか、国際交流の深化も視野に入れながら、活動していきたい。神奈川フィルがこれまで行ってきた子どもたちの音楽教育、ボランティア活動なども、さらに発展させたい。本当のクラシックの感動を伝えられるよう、演奏会に招待することも考えている」
在日コリアンの立場を生かし、韓国との音楽交流も深めたい希望を持っている。
「昨年、ソウルフィルで客演したが、とても若々しくパワーにあふれた楽団だった。また客演をしてみたいし、神奈川フィルの韓国ツアーもいつか実現させたい。韓国ではソリストに比べ若手指揮者があまり育っていないが、オーケストラ交流を進める中で、刺激を与えられたらと思う。在日ならではの橋渡しを実現させたい。後30年ほどしたら、韓日のクラシックは大きく発展していると思う」
「米国で長く暮らす中、在日のアイデンティティーとは何か、国際人として生きるとはどういうことか考えさせられた。在日はマイノリティーとして自我の確立に悩まざるを得ないが、自分の存在が勇気を与える一助になればうれしい。いい音楽を聴き、技術を身に付け、世界に羽ばたいてほしいと思う。私も神奈川フィルを発展させ、いつかは欧州にも出て行きたい。音楽活動には定年がないので、死ぬまで音楽と向き合いたい」