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2009/09/11

<韓国文化>体が語りかける力とは

  • 体が語りかける力とは①

                    高谷 静治さん

  • 体が語りかける力とは②

    キム・ヒジンの舞台より photo : Young-mo Choi

  • 体が語りかける力とは③

          キム・ヒジン(左)           キム・ジェドク(右)

 「ダンストリエンナーレ トーキョー 2009」が、9月18日から10月8日まで、東京・青山の青山劇場など5カ所で開催される。今年で4回目となる同イベントには、韓国、日本、オランダ、イスラエル、カナダ、フランスなど11カ国18のアーチスト、カンパニーが参加し、ダンスやワークショップを繰り広げる。ディレクターの高谷静治さんに文章を寄せてもらった。

 最近街を歩けばアートだらけ。そして劇場に、書店に、ギャラリーに、街路にアーチストがあふれている。最近では「職業はアーティスト」という人も出てきた。アートに対する評価基準は百家争鳴でとてもここで述べることは出来ないが、いずれにしても最近のアート事情は大きく様変わりしてきていることは間違いない。

 そんな中で、三年ぶりに『ダンストリエンナーレトーキョー』がアートの街にやってくる。かつて「このフェスティバルは陳列と消費だけ」と一部の識者に評されたが、私たちはフェスティバルに理念や批判的なキュレーションを求めてはいない。現代ダンスに対する評価軸は様々だし、時にそれが大きな推進力となることは確かだ。

 しかし、私たちは「街はダンスだ」というキャッチで、賑わいを掘り起こし、「ダンスはじめて」の人たちを拡大したいと考えている。多くのダンスを「陳列」し、多くの「消費」者を増やしたいのだ。

 今回のフェスティバルには日本と10カ国のダンサーが参加している。はじめて参加してくれるトルコのタルダンスカンパニーなど魅力満載のプログラムが組めたと思っている。ヨーロッパ、カナダ、イスラエル、トルコなどのダンスは他の誌面が取り上げているので、ここでは韓国からのアーチストを紹介したい。

 韓国現代ダンスの世界でも「なんでもあり」の流れが渦巻き始めたようだ。コントロール出来ない身体をさらして「これぞコンテンポラリーダンス」という若者が散見されるようになったが、これはコンテンポラリーアート自体が持つ必然かも知れない。

 表現の束縛を嫌い、難解ゆえの孤立を恐れず、とはいえ多くの観客に観てもらいたいというジレンマを抱えているのは韓国も日本も同じようだ。

 そんな中で07年の韓国モダンダンスフェスティバルで出会ったキム・ヒジンの作品「MemoryCell」は強烈なものだった」。

 前述の若者たちとは違い、完璧なまでの身体のコントロールで濃密な空間を創るその身体表現は物語性を排しながらも内なる声を観る者に饒舌に語りかけてくる。音楽も照明も観客も空間のすべてが彼女の持つ求心力にひかれてまさに暗黒星雲の態。踊る身体でなくとも、動かなくてもダンスは成立するという評価軸を否定するものではないが、身体そのものが語りかけてくる求心力に圧倒されることはある。

 キム・ヒジンは、07年にヤン・ファーブルのソロ作品「主役の男が女である時」を日本で踊ったスン・イム・ハーとならぶ韓国現代ダンスの頂点に位置するダンサーであると思う。この貴重な才能を海外に流失させたままにしている、韓国ダンス界の責任は大きい。

 そしてもう一人、ダンスだけではなく音楽、演劇、伝統芸能などを自在に作品に取り込んでいる若き才能、キム・ジェドクを紹介したい。才能が輝くときにはその才能に様々な分野のアートが引き寄せられるもので、まさにジェドクの今回の作品「Darkness PoomBa」がその良い例だと思う。

 この作品と出会ったのは08年の「ソウル インターナショナル振付フェスティバル」で、日本人の振付も含め8作品が上演されたが、ジェドクの作品は、自らの身体を自在に表現のツールとして使い、なおかつ音楽も、演劇も、伝統芸もカモシカのような青年ジェドクに収斂されて、プリミティブな祝祭に立ち会ったかのような気分にさせてくれた。

 物にあふれた現代韓国にあって、作品題名に登場する(明るい貧者)たちのエネルギーは脈々と続く韓国人の身土不二を感じさせる。

 完璧なまでの身体のコントロールと、身体を自在に自らの表現のツールとして使う二人の韓国人振付家は「これぞコンテンポラリー」と声高に叫ぶ若者とは違う表現軸を持つ求心力の強い作品である。是非このダンスの現場に居合わせてもらいたい。そしてともに疾走してほしい。


■ダンストリエンナーレトーキョー2009■

日程:9月18日~10月8日
   *韓国の出演は9月26日、28日
場所:青山劇場(東京・青山)ほか
料金:一般当日4000円ほか。
電話:0570・02・9999