造形作家の魚田元生さん(うおた・もとお、64)は、新たなアートの交流を目指してNPO法人「国際芸術宇宙センター」(略称・アートコスモス)を設立し、日本、韓国をはじめ世界の子どもたちのアート展を今夏、東京で開いた。来年は韓国で開催を予定している魚田さんに文章を寄せてもらった。
8月、東京・銀座で設立記念展、アートコスモス展を開催した。テーマを「生命(いのち)」としたのは、日ごろから生命について考えていたこともあったが、開催月8月が日本の敗戦の月であり、また、近年日本に毎年3万人を越える自殺者がいる現状などにてらして、生命というものを人は、そして美術家をはじめとしたアーティストはどのようにとらえ、どのように考えているのか、それを作品出展者と観覧する者がともに考える、そのきっかけとしたかったからだ。それはまた、現在、低迷しているアートの世界に対して、明日を考えるためのなんらかの示唆が得られるのではないかと考えたからでもある。
第1会場はギャラリーアーティストスペース。70名ほどのアーティストの平面と立体の作品展示を行い、オープニングでは、ナガッチョ氏(長崎慎)による「生命」を表現したパフォーマンスを演っていただいた。作品展示は、日本をはじめとして韓国、アメリカ、フランス、オーストラリア、スウェーデンなど。
第2会場はギャラリー悠玄。1階展示室は70人ほどのアーティストの作品展示と、30人ほどのアーティストや写真家、作家、評論家などによる、「生命」についてのメッセージや想いの文章の、いわばコラボレーション。文章はパネル化して美術作品とともに並べ、展示した。平面や立体の実作品とともに並べることによって、そこにいわば響き、共感のようなものが生み出されるのではあるまいかと意図した。
2階展示室は、世界の子どもたちによる作品を展示した。テーマは一般参加者とおなじ「生命」。日本、韓国、アメリカ、フランス、パレスチナ、オーストラリア、スリランカなどの国から180人の子どもたちが、作品を寄せてくれた。
日本の子どもたちが共同制作した一枚の大きな絵をギャラリーの真ん中に太い円柱のように置き、周囲の壁には床から天井近くまで子どもたちが寄せてくれた絵を各国別に展示した。観客は壁をなぞるように、円柱をめぐるようにして、子どもたちの絵を見ていく。全体の静かなエネルギーを感じながら、一枚ずつの絵を見、移動していく。「まるで子どもたちの未来への想いのまっただなかを歩いているようなものだな」とは、ある観客の感想だ。
また、第2会場地階では、こちらも「生命」をテーマとして、ライブを行った。アーティストの作品とともに子どもたちの絵を展示することによって、また、踊りや唄のライブを同時に行うことによって、美術作品とのコラボレーションから、いままで知らなかった人やモノ、アーティストにとっては異なったジャンル、人との出会い、交流が生まれてほしいと願ったのだ。
アメリカからは知的障害を持った子どもたちの作品が届いた。オーストラリア在住のわが娘からは、画材を手に公園に出かけて集めた絵と、絵を描く子どもたちの写真が届いた。これは、会場にリアル感を演出してくれた。私は、明日の世界をになう子どもや若者たちと、未来を一緒に考えていきたいと思った。
私は、71年、武藏野美術大学よりアート研修としてフランスに派遣され、パリ、シテテザールを始めモンジュ、ベニュー、モンマルトル等で、様々な国々のアーティストとの出合いと交流の中で創作活動を行い、発表し、ちがった分野やいろいろな人との出会いと交流がいかに大切かを知った。80年の帰国後は、ソウルで韓・日交流展に参加したのが、私の国際交流の始まり。交流をかさねることで、NPO法人アートコスモスは生れてきたのだが、そもそもの初めに、韓日に親しい友人を持ち、韓国の交流展への参加が原点としてあったのである。
来年7月には韓国釜山市美術館で、韓・日コンテンポラリーアート交流展を開催する。交流展では、今回のアートコスモス展でのテーマ、「生命(いのち)」を一層掘り下げるつもりだ。シンポジウムをも含めた美術のコラボレーション展(アーティストの作品と、子どもたちの絵、舞踏や音楽)を計画するのは、韓国現代美術界が内臓しているアートに対する活気・活力を、高く評価しているためである。