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2009/05/01

<韓国文化>実在の事件モデルに韓国の闇描く

  • 羅泓軫(ナ・ホンジン)監督

    ナ・ホンジン 1974年生まれ。漢陽大学でインダストリアル・アートを専攻後、韓国芸術総合大学卒業。長編デビュー作となる本作で韓国大鐘賞、大韓民国映画大賞など国内主要映画賞を総なめ。現在、最も期待される若手映画監督の一人。

  • 実在の事件モデルに韓国の闇描く

    韓国で主要映画賞を総なめにした『チェイサー』が日本で公開される。(c)2008 Big House/Vantage Holdings. All Rights Reserved.

 韓国で昨年大ヒットし、第45回大鐘賞(韓国アカデミー賞)最優秀作品賞など主要6部門を受賞した映画『チェイサー』(原題・追撃者)が、5月1日から全国公開される。実在の事件をモデルに連続猟奇殺人犯を追う元刑事の姿を描いた犯罪サスペンス映画だ。羅泓軫(ナ・ホンジン)監督に話を聞いた。

 2004年にイラクで韓国人が殺された事件、そして国内で起こった連続殺人事件。この2つの事件に衝撃を受けて映画化を考えたという。

 「どちらの事件も被害者は拉致され、生きたいとと切望しながら殺されていった。両者とも被害者はどんなに助けてほしいと願ったことだろうか。それを考えると本当に心が痛んだ。それがこの映画を撮ろうと思った動機といえる」

 ユ・ヨンチョル事件は、2004年9月にソウル市内の出張マッサージ店の店長が、男に呼び出された女性従業員が戻らないと警察に通報したことが、逮捕のきっかけとなる。同一人物らしき男から再び電話があったと店主は警察に再度通報し、待ち合わせ場所に出向いた犯人を店主と従業員が取り押さえ、警察がやっと逮捕した。当初は殺人犯と思わず取り調べたところ、「20人以上殺した」との自供を受け、その自供に基づいて遺体発掘作業が始まった。犯人の不遇な生い立ち、被害者を切り刻んで一部を食べたという事件の残忍さ、警察の捜査の不備なども相まって韓国全土を震撼させた事件だった(犯人は2006年に死刑が確定している)。

 「韓国では最近も連続殺人事件があり警察が必死に捜査して逮捕したが、このユ・ヨンチョル事件の場合は、警察の捜査が不手際で、一般人が逮捕したようなものだった。裁判資料などを読み、シナリオ執筆に挑んだ。元刑事の主人公は犯人を捕まえるまでに様々なミスを犯す。そのミスが女性の一人が殺される原因にもなるが、あれが彼の努力の限界だった。また彼が警察署で犯人を殴ったことから事件が明らかになっていくが、それを通して警察の捜査が不十分だったことを描き出した」

 シナリオには特に長い時間をかけたという。殺人の動機が明らかにならないのが特徴だ。

 「犯罪者の発言をどれだけ信じることができるだろうか。また動機を強調するような映画つくりはしたくなかった。だから2人の生い立ちもはっきりと描かなかった。観た人が考えてくれればいい」

 36時間ぶっ通しで撮影するなど、映画は苦労の連続だったという。

 「雨が多くて撮影できない日が続いた。また夏の撮影だったので夜が短くて、それにも苦労した。本当に費用もスケジュールも大変だった。路地裏のシーンが数多く登場するが、そういう場所に実際に住んでいた経験があるので、それを思い出しながら撮影した。また実際に通行人の後をつけるように歩いてみるなど仮体験をしながら撮影のアイデアを練った」

 スター俳優を起用しない低予算の映画だったが、次第に評判が高まり、500万人の観客動員を記録する大成功となった。低迷が続く韓国映画界に明るい話題を呼び込んだ作品であった。

 「2人の俳優とは十分に話し合い、キャラクターを理解してもらった。2人とも敏感さときめ細やかさを持っており、アクションシーンでも期待通りの演技をしてくれた。韓国映画界は最近は少し厳しいが、この10年ほどを振りかえれば、本当に大きくなったと思う。多くの先輩映画人の苦労で、現在の環境があることに感謝したい。多少の困難はあっても、発展していくだろう。韓日市場の共通点を探すのが大変だが、合作映画も面白いと思う」