ここから本文です

2010/08/20

<韓国文化>写真が記録した100年前の朝鮮

  • 写真が記録した100年前の朝鮮①

    時代の変化。親は伝統の衣服、子供は洋服(1920年代)

  • 写真が記録した100年前の朝鮮②

    京城(現在のソウル市)景福宮の光化門、石獣の上の少年が目を引く(大正元年・1912年の消印)

  • 写真が記録した100年前の朝鮮③

              「物を売る人」の写真は秀作が多い

  • 写真が記録した100年前の朝鮮④

    幼いいのち、老婦人、長い道のり、人の一生を想起させる珠玉の一枚

 高麗美術館(京都市北区)の特別企画展「『写真えはがき』の中の朝鮮民俗」が、8月21日から10月17日まで、同館で開催される。1900年から45年にかけて発行された絵はがきを通して、当時の庶民の暮らし、風俗を知る貴重な企画だ。同美術館研究員の山本俊介さんに文章を寄せてもらった。

 2010年は、日韓併合(1910年8月29日)から100年という大きな節目の年に当たる。日本の「絵はがき」は20世紀と軌を一にして1900年(明治33年)10月1日、「私製はがき」の発行が許可されたことに始まり、朝鮮でも郵便制度の発達、交通基盤の整備、旅行や観光の広がり、そして写真や印刷技術の発展などに伴い、多種多様な絵はがきが発行された。

 自然の風景や都市のありさま、人々の暮らしや風俗など、身の周りのあらゆるものを題材とし、時事的な出来事まで素早く報じ、さらには国際的な博覧会や地域における行事(イベント)までもが記録され、記念絵はがきとして発行され、伝達された。

 こうした植民地下の朝鮮の状況を捉えた「写真絵はがき」は人類学的、民俗学的な観点からも貴重な歴史資料となっている。とりわけ朝鮮半島の「写真絵はがき」は、台湾や満洲のものと比べて、人々の姿をリアルにつかみ取っている。

 なかでも朝鮮の特徴的な風物として「物を売る人」「物を運ぶ人」などの人物像を撮影したものは、(フランスのユジェーヌ・アッジェや、ドイツのアウグスト・ザンダーなどの体系的に構築された写真には及ぶべくもないが、)対象の人物を的確に捉えて表現しており、写真の芸術的価値も看過できない。

 かの地には柳宗悦や浅川巧、若山牧水、平福百穂など思想家、文学者、芸術家をはじめ多くの著名な文化人が訪れ、文筆に秀でた彼らは「絵はがき」をこまめに書き留め、日本の関係者にわが意を伝えている。

 日本人が捉えたそうした写真や文章の中には、もちろん上からの目線(まなざし)で表現されているものが随所に見え隠れすることは否めないが、そのことを糾問するばかりではなく、複雑で長く険しい歴史を経て辿り着いたこの「現在」を知るためにも、100年前の近代の原点を冷静に見つめてみたい。我々は、「どこから来て、どこへ行くのか」、どのような状況の中で人々は往き来きし、何を伝えて、そして、ここにいるのか。

 本展では、厳選した約300枚の写真絵はがきに生写真などを加えて、出品点数450点、①「絵はがき」誕生、その構造②日韓併合、植民地の風景③100年前の写真・映像を視る、などで構成されている。

 かの地を訪れた柳宗悦や浅川巧、若山牧水などの文化人や市井の人々がしたためた文面を読み解き、さらには鳥瞰図絵師・吉田初三郎が描いた朝鮮半島の俯瞰地図や朝鮮博覧会の状況(1929年)、また美人ブロマイドともいえる「妓生写真」の図像、多くの観光案内冊子等を拠り所として、朝鮮半島の100年前への時空の旅に出かける。日本と朝鮮半島との深いつながりに目を向け、いま一度我々の地歩を見つめ直してみる機会としたい。


■「写真絵はがき」の中の朝鮮民俗■

日時:8月21日~10月17日
場所:高麗美術館(京都市北区)
料金:一般800円、大高生500円
電話:075・491・1192