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2010/03/12

<韓国文化>植民地下の"家族愛"描く

  • 植民地下の”家族愛”描く

              『木槿の咲く庭』公演チラシ

 韓国系米国人のリンダ・スー・パークの小説「木槿(むくげ)の咲く庭 スンヒィとテヨルの物語」(柳田由紀子訳、新潮社)を舞台化した『木槿の咲く庭』が、23日から28日まで、東京・吉祥寺の前進座劇場で上演される。リンダさんが幼い頃、両親から聞いた韓国での体験をもとに、創作した作品で、2003年度国連ジェーン・アダムス賞(児童書の平和賞)を受賞している。前進座は植民地統治下の韓国で独立運動家の弁護にあたった日本人弁護士・布施辰治の生涯を描いた『生くべくんば 死すべくんば―弁護士・布施辰治』を上演するなど、両国の歴史を考える演劇をこの間、作り続けている。

 リンダ・スー・パークさんは韓国系米国人の2世。作者の両親が子どものころ、韓国で体験したエピソードがもとになっている。そのため主人公の兄妹の描写がとてもあたたかく、愛情がこめられている。

 舞台は1940年から45年、大邱(テグ)近郊の小さな町の金一家。闊達で利発な妹スンヒィは10歳、正義感が強くて機械好きな兄テヨルは13歳。謹厳実直な教頭先生アボジ、やさしいオモニ、そして印刷店を営む叔父。物語は、深い愛と強い絆に結ばれた、この五人家族の6年間の出来事を兄妹の目を通して描き、展開していく。

 日本の皇民化政策は、ますます激しさを増し、母国語、国旗、名前、文化や風習など様々なものが奪われてゆく朝鮮半島。暗い影は容赦なく金一家の生活にも覆いかぶさっていきます。ついには韓国の国花であるムクゲの木をすべて伐採し、日本の国花サクラに植え替えよとの布告が出る。

 しかし二人の兄妹は、この圧政にひるむことなく、知恵と勇気を発揮して乗り越えていく。

 ある日、憲兵が荒々しく金家に踏み込む。潜行中の抗日活動家である叔父の書類を捜しに来たのだった。目的の物を発見できなかった憲兵は、スンヒィが日々の思いを詩に託して書き綴った日記帳を引き裂き、かまどに投げ込む。

 「スンヒィ、忘れちゃいけないよ。日本人は、紙は燃やせても言葉を焼くことはできなかった、ということをね」

 暗い部屋にアボジのやさしい声が…。

 その後、青年に成長したテヨルは、アボジやオモニ、スンヒィが必死に引き止めるのを振り切って飛行隊に志願した。数カ月後、特攻隊員テヨルから沖縄に出撃するとの遺書が届く。

 日本の翻訳者が英語版に感銘し、日本で刊行されたのが06年6月。その直後から、同劇団は舞台化の準備を進めて来た。

 「殖民地下、在日の方々を含め、ハルモニ(おばあさん)やハラボジ(おじいさん)の皆様が子どものころに感じた苦い苦しい思い、そして激しい怒りなど、その一端を再現することは、至難なことではあるが、少しでも描くことができたなら、大いに意義のあることではないか」との思いで準備を行ったという。

 スンヒィの名前は「心が澄んだ美しい女の子」、テヨルは「大いなる情熱」を意味する。

 文章や詩を書くことが好きで、日記に自分の気持ちを書きとめたスンヒィの姿は、「アンネの日記」のアンネ・フランクを重ねて感じさせる。戦争の悲惨さを描くことに力点を置かず、少女から見た戦時下の家庭生活で感じた思いを表現していくという共通点があるからだ。

 「『木槿の咲く庭』を日本の劇団、前進座が初演するということは、「アンネの日記」をドイツ人が世界で最初に舞台化するようなことだと、重い責任を感じている。日本は二度と加害者になってはならない。戦争放棄を手放してはならない。今回の演劇公演が韓日両国のいっそうの友好の一助になればと、切に願っている」と話す。

 演出の十島さんは「あどけない子どもの視線で植民地時代の苦難をどう描くか、日本人の立場で当時の韓国人の苦しみにどう近づくか、演出家も俳優も苦心している。舞台はその積み重ね」と語す。

■木槿(むくげ)の咲く庭■

日時:3月23日~28日
場所:前進座劇場
   (吉祥寺下車徒歩10分)
料金:5000円
電話:0422・49・2633(前進座)
 *東洋経済日報・読者割引あり。詳細は前進座へ。