韓国映画界の新鋭、梁益準(ヤン・イクチュン)監督が主演・脚本も兼ねた『息もできない』が20日から日本公開される。韓国社会の底辺で生きるやくざのサンフンと心に傷を持つ女子高生との、心の痛みと触れ合いを描いた作品で、昨年東京フィルメックスで公開され、最優秀作品賞と観客賞に輝いている。梁益準監督に聞いた。
――2人の心の傷は、見るのがつらくなるほど痛々しかったが。
多くの観客が、この映画をつらい気持ちで見てくれた。以前ある映画評論家が、自己反省的な映画と評したが、自伝ではなく、いろいろな題材を付け加えて作った。基本的にフィクションだ。しかし、苦悩は真実だ。自分の抱えていた家族との問題、心の中の闇、もやもやを吐き出す思いで作った。
韓国は個人よりも国家が優先される社会だ。私の親の世代はベトナム派兵を経験している。そういう父母の世代への思いも、映画で表現している。韓国は、個人としての生き方がもっと尊重される社会であってほしいし、特に若い人たちの選択を尊重してほしい。
――映画制作で苦労したのは。
資金繰りが大変だった。家を売り、両親、友人からも借金した。親から独立して8年経ったのに、親に借金をすることになったのは、複雑な思いがあった。それでもこの映画を作りたかった。最近やっと、親に借金を返すことができた。サンフンが借金の取立てに行くラストシーンは、両親に頼んで実家で撮影した。血だらけのシーンが続くし、気持ちがつらくなる場面なので、母には撮影を見ないでくれと頼んだほどだ。
――制作・監督・主演とすべてをこなしたが。
サンフンのように、自分も感情を出すことが苦手だ。自分が書いたシナリオなのに、なかなかサンフンの感情がつかめずに苦労した。何かを伝えたいというよりも、自分の息苦しさを何とかするために作った映画だが、観客が共感してくれたことはうれしい。
映画がドキュメンタリー風に見えたという意見が多かったが、それは演技が自然だったからだと思う。リハーサル無しで撮影することもあったが、俳優には、家族との葛藤を心に秘めて演じてくれと説明した。カメラマンには、俳優を追いかけるように撮影するよう頼んだ。クローズアップシーンを多くしたが、それは自分の幼い頃の体験が基盤になっている。子どもの目からはすべてが大きく見えるものだからだ。監督と俳優を兼ねたことで、俳優たちと同じ目線で接することができたのもよかった。
――韓日文化交流について。
以前、韓日合作の『まぶしい1日』や『けつわり』などの短編映画に出演したことがあり、そこで在日や日本の人たちと多く知り合った。韓日にはまだ歴史の問題があるが、それを整理して、これまでの何倍も交流ができればいいと思う。