韓日合同公演『リア』が今月下旬、東京の座・高円寺で上演される。韓国の著名な女性演出家、金亜羅(キム・アラ)さんが、日本の故岸田理生の戯曲を再構成し、スタッフが韓日、出演者が日本人で上演される意欲作だ。金亜羅さんに話を聞いた。
――今回演出を行う『リア』は、どのような作品で、どのような演出になるのか。
これは元々、日本の女性演出家の故岸田理生が、シェークスピアの「リア王」を大胆に脚色したもので、リアと長女の葛藤を中心に描いた作品だ。国際交流基金アジアセンターが日本、中国、インドネシアなどからスタッフ・キャストを集めて、シンガポールのオン・ケンセンが演出して97年から99年に日本・東南アジア・豪州・欧州で巡演された。
その初稿の脚本を再構成し、人間の尊厳とは何か、欲望とは何かを描き出そうと考えた。
舞台美術、音楽などのスタッフは韓国と日本のメンバーで、岸田とも交流のあった人たちだ。
出演者はすべて日本語を母語とする俳優にした。日本語を上手に操れないと作品が成り立たないからだ。
――故岸田理生との交流について。
90年、当時アジア女性演劇会議の実行委員を務めていた岸田が、私の公演を招聘するために韓国を訪れたのが初めての出会いだった。
同じアジアの女性演出家として、芸術を深く愛する者として、「友人」「同志」としての関係を深めていった。彼女が03年に亡くなるまで、作品をともに観て、批評し、議論した。彼女は韓国の情緒を愛し、韓国語の勉強も始め、韓国の俳優を日本に招待もしてくれた。私の作品「隠れた水」を観て、彼女が「隠れ家」を発表したこともある。本当に大切な同志を亡くした。
今回、追悼公演の演出家として招請されたが、岸田の美しい言葉の世界を守りながら、そこに私が創りあげた「複合ジャンル音楽劇」の形式を融合させ、全く新しい演劇として舞台化することを目指している。
――その「複合ジャンル音楽劇」とは、どんなものか。
私の演劇を貫く美学といえるもので、一つの主題に対し、各ジャンルのアーティストが複合的に加わり、音楽が主導する舞台だ。古代演劇が、各ジャンルに解体する前は祭祀の意味合いを持った一つの演劇だったように、新しく一つになるものを作り上げた。『リア』も、映像アーティスト、音響アーティスト、ピアニストが舞台上で俳優と一緒に表現する、とても視覚的な舞台だ。
――日本で演出する苦労は。
韓国で私の舞台に出る俳優は、事前に私の音楽的、文学的訓練を受けている。日本では、訓練を受けていない俳優を指導するので、俳優を導く方法を新たに考えた。苦労というよりも新鮮な体験だった。その分俳優たちは大変だと思うが、全力でぶつかってきてくれるのがうれしい。いい舞台になると確信している。
――演出家を志したきっかけは。
幼いときから音楽や文学に親しんでいたが、自分が何になりたいかは漠然としていた。それが高校生の時に「王女メディア」を観て圧倒され、演出家を志した。
米国留学を経て、ソウルの小劇場で文学作品や実験演劇を発表した。92年に劇団「舞天(ムチョン)」を創立し、国内外で作品を発表。97年、京畿道(キョンギド)の竹山(チュクサン)に野外劇場を設立、ここが「複合ジャンル音楽劇」への挑戦の出発点になった。シェークスピアの4大悲劇、ギリシャ悲劇などをモチーフに作品を発表し、一方、海外では祝祭的、祭祀的な作業を行ってきた。
06年からは、カンボジアのアンコールワット、韓国の漢江や世宗大王の陵など、ストーリー性を持った遺跡での公演にも挑戦している。
――韓日文化交流について思うことは。
芸術分野での韓日交流は、本当に活発化している。この流れがさらに進んでほしい。そして個々にもっと緊密な人間的交流ができればと願っている。
また日本には在日コリアンが多く居住している。マイノリティーとして社会的な制約、自分は何者かという悩みを常に持つかもしれないが、他と違うことを肯定的に捉えることが重要だと思う。そこから自尊心が生まれてくるからだ。ルーツを自覚し、大切にしてほしい。(敬称略)
■韓日合同公演『リア』■
日時:24日~27日(全6公演)
場所:座・高円寺1(東京・高円寺)
料金:4000円
電話:045・663・3082