韓国、日本、在日の劇団が出演するアリスフェスティバル2010「競演 東西南北」が、来年2月27日まで、東京・新宿のタイニイアリスで上演される。タイニイアリス主宰の西村博子さんに文章を寄せてもらった。
10㌧とか12㌧とかと聞いたけれど、床いっぱいに敷き詰められた砂で、まるで海浜になってしまった場内。明かりが入ると、砂がムクムクと動き出して中から、日光浴で寝ていたのだろうか?青年が現れてびっくり。アリスフェスティバル2010のオープニング公演・手作り工房錫村の「ムチムチ」(錫村聡作・演出)だった。
その、夜の海辺に入れ替わりやって来て交わす青年男女や高齢者たちの会話は、デジタルTVや炊飯器など電気製品をいかに客に売りつけるかとか、テレクラの女とどうやって交渉成立に漕ぎ着けるかなど、ついつい笑ってしまうような無駄話?ばかり。が、考えてみれば、基本的に売り買いで成り立っているこの高度資本主義経済社会。ほとんどの言葉は、これと本質的に同じものではないだろうか。これは、現代社会をみつめようとする小劇場演劇の一つの果敢な実験であった。
アリスフェスティバルはこれで第28回目。この「ムチムチ」を筆頭に、今年は14劇団が来年の2月まで順次公演する。新宿2丁目にあるタイニイアリスは文字通りちっちゃな(tiny)アリスという意味で、アリスが落っこちた不条理な穴の世界みたいなこの現代社会を、いかに映すか。演劇のほんとの楽しさ、面白さとは一体何なのか、それぞれの劇団が渾身の演劇実験をしていく。
中でも注目は、2日から始まる演戯団コリペの「屋根裏の床(ゆか)を掻き毟(むし)る男たち」(10月2日~4日)ではないだろうか。釜山からやってくる。
総芸術監督の李潤澤(イ・ユンテク)は、韓国国立劇場の前芸術監督、現釜山演劇大学の学長、密陽(ミリャン)演劇村の芸術監督、ソウルと釜山で2つも小劇場を主宰している といったことでも有名だが、それより90年代初めに、マダンを採り入れた身体表現で韓国演劇界の、それまで新劇中心だった演劇界を、実験的な小劇場演劇へとがらりと一新した人として私たち日本には馴染みが深い。目指す目標の一つであり、良き競争相手だ。
今回の「屋根裏の床を掻き毟る男たち」は、韓国でも増えて来た?らしい、フリーターたちの物語。東亜演劇賞の大賞と演出賞と舞台美術賞、賞を三つも獲得した昨年度のベスト・プレイである。タイニイアリスのあの狭い空間で屋台崩しもするというから刮目(かつもく)して観てみたい。
韓国や在日の劇団を一つに括ってみたのも大きな特色である。名づけて「競演 東西南北」。西の大阪、東の東京を含めて、同じ東アジアの、しかしそれぞれ違う都市で生きている人間が、いま何を考え何を感じているかの競演である。
チャンゴで歌い踊った父母からチョゴリを着て産まれてきたという在日3世を描く劇団アランサムセの「夢の国さがして」(金元培脚本・金正浩演出。10月28日~31日)。次いでソウルから来日するEmpty Space。言葉を使わないマイムで、東京演劇ユニットKANIKAMAと技を競う「二人の警官」(金星然作・演出。2011年1月28日~30日)。日韓の、いわば師弟競演と言えよう。それに大阪の、朝鮮人なのにその言葉を知らない少年と戦争で孤児となった日本人少年との交流を描く劇団Mayの「十の果て」と、劇団タルオルムの、教える者も学ぶ者も少しずつ消えていく朝鮮学校で最後の舞を教える師と少女を描く「金銀花永夜」(両作とも金哲義作・演出。2011年2月25日~27日)と続く。
後者の劇団タルオルムは済州島の国際演劇祭に出場、帰国してきたばかりだし、これらの公演の間に、榴華殿の釜山・台北・東京合同公演「のら猫たちは麗しの島をめざす」もある(川松理有作・演出。11月20日~23日)。釜山でも台北でも東京でもどこの都市でも喰うや喰わずで?演劇しなくちゃいられない人たちが、のら猫になって出て来るっていうから笑っちゃう。国境なんて関係ない。演劇人たちの心意気であろう。
『屋根裏の床を掻き毟る男たち』
10月2~4日
『夢の国さがして』
10月28~31日
『十の果て』『金銀花永夜』
2011年2月25~27日
場所:タイニイアリス(東京・新宿)
電話:03・3354・7307